
2003.12.24
2003年12月24日
| 代表理事 | 更田義彦 |
| 同 | 弘中惇一郎 |
| 同 | 紙谷雅子 |
| 同 | 田中宏 |
社団法人自由人権協会は、特定の政治的立場に立つことなく、基本的人権の擁護を唯一の目的とする団体である。当協会は、今回の自衛隊のイラク派遣に対し、日本国憲法が保障していている基本的人権に対する重大な影響、ならびにイラクを初めとする他国の人々の人権という見地から、以下のとおり声明する。
12月9日、小泉内閣は、自衛隊のイラク派遣についての「基本計画」を閣議決定した。具体的な派遣時期については明言を避けたが、政府は、早ければ、来年一月中旬にも航空自衛隊を派遣するとしている。しかし、この決定は、その正当性において多くの疑問があるのみならず、この決定を実施することは、紛争当事国に対し、日本がこれまではたし、また今後はたしうるであろう役割を根底から破壊する危険をはらむものである。
現在までイラクで続いているアメリカとイギリスによる占領は、国連憲章に照らしても、その合法性に多大な疑問があるため、世界中の主要な国々はイラクへの派兵を拒否し、またアメリカとイギリスを含む各国の市民の多数は、イラクに対する占領に反対している。そして、イラク国内では、アメリカとイギリスの占領軍とその支援のために駐留する各国の軍隊のみならず、人道援助の目的で滞在する国際機関やNGOに対してまで、武力攻撃が繰り返されている状況である。本年8月の国連施設の爆破、そして11月の日本の外務省職員に対する襲撃は、そのような状況を如実に物語るものであった。
第1に、今回の自衛隊のイラク派遣は、憲法をはじめとする国内法、ならびに国際法に照らしてもとうてい正当化できるものではない。武力抗争が進行中の国家に対して、武装した日本の自衛隊が派遣されることは、憲法第9条及び自衛隊法のもとで、「わが国を防衛すること」を主たる任務とする自衛隊の役割をはるかに逸脱するものである。このことは、派遣された自衛隊が現在のイラクの状況の中で、現地での武力攻撃に対抗するために武器を用い、イラクの人々を殺傷する事態が容易にあり得ることを考えれば、いっそう明らかである。さらに、イラクに対する戦争と占領の合法性に対して国際社会が大いなる疑問を呈しているもとで、その占領の問題点を正す努力をすることなく自衛隊を派遣して参加していくことは、いかに人道援助や復興を目的とするものであっても、アメリカとイギリスの占領に対する加担行為であるとの評価は免れない。
また、日本は、これまで世界各地の紛争当事国に対し、平和憲法を持つ立場からさまざまな形での復興援助を行ってきた。とりわけ中東やイスラム圏での紛争に対しては、中立性を保ちながら当事者の信頼を得る貢献を行ってきた。今回、国際社会の十分な支持もないまま、アメリカ軍主導の占領政策に加担し、それを自衛隊という「軍隊」に担わせることは、日本がこれまで築き上げてきた中立な人道援助や復興援助の性格を根本から変えることとなる。そのことが、民間の立場や文民として人道援助や復興援助に携わっている人々の生命や安全を危険にさらす可能性を、政府は直視すべきである。
なお、以上のような重大な政策が進められるに当たって、日本社会においては、十分な情報にもとづく議論がなされて来なかったことを指摘する必要がある。政府は、これまでイラクで起こっている事態の評価や派遣された自衛隊が武力紛争に巻き込まれる危険性がどの程度あるのかといった基本的な問題に対してすら、検討中であることを理由に十分な情報を提供しないままに、今回の決定にいたっている。また、その派遣の対象となる自衛官に対しても、「イラク関連取材対応Q&A」や「取材に関する注意」などといった指導文書での注意が行われ、自衛官の意見や感想が公にされない実態が存在する模様である。このような状況では、真に民主的な政策決定は行うことはできない。
さらに、自衛隊のイラク派遣の計画に対しては、報復のテロリズムがあり得るかも知れないことが報道されているが、そのような可能性への対策として、日本国内でのイスラムのコミュニティを初めとする外国人社会や日本の市民に対して、日本政府がその市民的自由を脅かすような介入を行うことは、厳に避けるべきである。
よって、当協会は、今回の自衛隊のイラク派遣を中止し、日本が取るべきイラク問題の政策を根本的にあらためることを日本政府に要望する。
以 上