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行政訴訟制度に団体訴訟を導入することを求める意見書

2003.8.7


2003年8月7日

司法制度改革推進本部
行政訴訟検討会 御中

東京都港区愛宕 1-6-7
愛宕山弁護士ビル 306号
社団法人 自由人権協会
代表理事更田義彦
弘中惇一郎
紙谷雅子
田中宏


行政訴訟制度に団体訴訟を導入することを求める意見書

行政訴訟制度改革の機会に、是非とも団体訴訟を導入することを提言する。

T 意見の趣旨

  1. 行政訴訟制度改革の機会に、行政手続きを定める個別の実体法を見直し、当該各分野において、専門性と相当の活動実績を有する非営利団体に、当該各分野に関する行政訴訟の原告適格を認める諸規定を整備すべきである。
  2. 行政事件訴訟法の改正に際し、現行法第9条「処分の取消しの訴え及び裁決の訴えは、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものに限り、提起することができる」(但し、引用者が法文の括弧内の記載を省略)に、「第2項」として次の規定を加えるべきである。
    「前項にかかわらず、裁判所は、別に法律で定めるほか、原告が当該事案の当事者としての専門性を有し、かつ、当該分野において相当の活動の実績を有すると認められる営利目的を有しない団体であるときは、決定をもって、当該団体の訴えの提起を認めることができる」

U 意見の理由

1 行政訴訟手続に団体訴訟制度を導入する必要性

行政訴訟手続においては、民事訴訟手続以上に団体訴訟を導入する必要性が顕著である。

行政事件訴訟法上、違法な行政処分に対し、その処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する者は、その処分の取消しを求めることができるとされており、裁判上、違法な行政処分によって被害を受けた者は権利の救済を求めることができる。このように現行制度上、抗告訴訟の直接の目的は、行政処分によって侵害された権利の救済を図ることとされており、行政庁の行為の適法性を確保することをその目的としていない。のみならず、侵害された利益が法律上の利益にあたるか否かという関門があり、原告適格が厳しく絞られているため、団体が訴訟活動を遂行することは困難である。    しかしながら、侵害された利益は必ずしも経済的利益とはかかわりがなく、裁判上のコスト負担に耐えかねる場合が少なくない。 さらに、その訴訟が、抗告訴訟の形態をとる場合であっても、たんに個人の権利の救済を図るためのみならず、実質上は、公共的利益に対する権利侵害を訴える場合がある。しかしこのような場合であっても、個人の力では訴訟資料の収集等に著しい困難があり、一般に問題を提起することもままならず、社会的に埋没してしまうこともある。

他方、行政分野の多様化、複雑化、技術性、専門性の進展に伴って法令の整備が進んでも、行政の現場では、法律の目的に照らし、必ずしもその運用が十分でなく、行政庁が一定の行政行為を行うべきであるのにこれを怠り、場合によっては、行政庁の裁量が収縮し、裁量の範囲を著しく逸脱し、違法な状態に立ち至っている場合もなしとしない。

ところで、近時は、個人の個別の利益を超えた、公益的目的を持って活動を行う民間の諸団体の活動が成熟し、専門的知識や経験を蓄積している団体も多い。とくに、消費者団体、環境保護団体、人権擁護団体、障害者支援団体などが、多種多様な分野において、蓄積した専門的知識や経験に基づき、行政庁に対し、違法状態の是正を求める場合もある。

このような団体の活動をたんなる陳情にとどめることなく、公益的利益に適う問題について、当該分野に精通した団体自体に当事者として訴訟に関与させることが、私人による公益の実現、すなわち行政の適法性を確保するために不可欠であると考える。このような団体の訴訟活動は、従前の個人の権利保護を中心とした司法制度の枠組みを超えるものではあるが、権利、利益の回復を図るために孤立した訴訟を余儀なくされてきた個人を援助し、行政訴訟を活性化させ、違法な行政行為による被害の救済を図ることにも資するものと思われる。

2 法改正の提言の内容

以上の趣旨から、行政訴訟手続には、広く一般に、団体訴訟制度を許容することが望ましい。

ところで、司法制度改革審議会最終意見(2001年6月12日)は、「裁判所へのアクセスの拡充」の中の「被害救済の実効化」の項において、「団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等については、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべきである」と述べているが、これも法分野によっては団体に原告適格を認めるのが適切妥当であるとするものである。

しかしながら法分野によっては、法律の見直しに一定の時間を要する場合もなしとしない。それゆえそのような場合に備え、行政事件訴訟法の改正によって、事案によっては受訴裁判所の判断によって団体に原告適格を認める可能性を開き、当該分野における専門性と相当の活動実績を要件に、裁判所の一定の裁量のもとで、任意の団体に訴えの提起を認める規定を行政事件訴訟法に加えるべきである(意見の趣旨2項)。 しかし、特定の法分野においては、受訴裁判所に事案ごとに団体の原告適格を判断させるのではなく、個別の法律で具体的要件を定め、要件に該当する団体に対し、訴えを提起する権利を付与する法改正を行うべきである(意見の趣旨1)。 個別的な法律の整備等によって団体訴訟制度を導入する必要性が高い行政分野としては、たとえば以下の分野を挙げることができる。これらの分野は、これまで比較的長い間、非営利団体の充実した活動実績があり、団体訴訟制度の導入にあたっては、既にこれを有効に活用する素地があるといえる。したがって、他の分野に先駆けて早急に、行政手続きを定める個別実体法において訴えを提起できる団体の要件等に関する諸規定の整備を行うべきである。

ア 消費者保護に関する分野

消費者契約は、事業者と多数の消費者が同種の契約を大量に行う。被害が発生しても、事後的な個別救済だけでは一部の被害者に対する救済がなされるだけで、問題は残存する。しかも新たに発生する被害を未然に防止したり被害の拡散を防ぐことができない。そこで、同種かつ大量の消費者被害の発生を未然に食い止めることが必要となってくる。

今日、消費者契約分野では、行政庁が様々な許認可権限等を有している。このうち、例えば、割賦販売法の前払式割賦販売の許可(11条)、許可販売業者の許可取消(23条)、貸金業法の登録の取消(37条)、宅地建物取引業法の免許の取消(66条)などの行政権限の行使に、非営利団体が処分の取消訴訟や免許等の取消(義務付)訴訟を提起する規定を設けることが考えられる。

イ 国民の健康、身体・生命の安全に関する分野

食料品、農産物、薬品などについては、誰もが日常生活の中で、日々摂取するものであり、無関心でいられない。しかし、個々人が、自らの健康被害を防止するために、行政の決定に対して、事前差止などの方法により介入して行くことは、能力的にも限界がある。

今日、消費者保護、薬害防止などの観点から、様々な非営利団体が活動しており、これらの行政権限の行使の適法性を確保し、国民共通の利益を図るにためには、非営利団体が行政手続き上及び訴訟手続き上の当事者として関与することが適切であると考えられる。

一例を挙げると、催奇形性の重篤な副作用を有するとして、製造許可承認が撤回された医薬品サリドマイドが、近時、骨髄腫に薬効があるなどとして個人輸入によって大量に国内で使用されており、この医薬品の薬害被害者が運営を担う財団法人が、厚生労働大臣に対し、毒薬・劇薬としての指定(薬事法44条)、要指示医薬品としての指定(同法49条)公衆衛生上の危険を防止するに足りる措置を採ること(同法70条)を要望している。このような場合に、当該団体が厚生労働大臣に対し、行政手続き上及び訴訟手続き上、薬害の再発を防止するために当事者としての関与を認めることが適切である。

ウ 環境保護に関する分野

環境保護に関する分野においても、これまでは、個別法規に準拠して生命・身体・財産に具体的危害が及ぶおそれが確実である者に対してのみ原告適格が認められてきた。しかし、このような立場を前提にすると、自然環境等の重大な侵害が予見できるにかかわらず、監督官庁がなんら適切な措置をとらない場合であっても、個人に対する具体的損害との因果関係等を確定することが困難であるために、原告適格が認められず、その結果、違法行為に対し、是正措置をとれないという事態が生じることになる。

環境破壊によって特定人に対して具体的損害が及ぶおそれが確実になるまで事態が進展してしまえば、もはや手遅れであって、環境をもとの正常な状態に戻すことは不可能である。その意味で、環境問題については、法律違反を早期に是正すべき必要性がとくに高い。具体的には、たとえば、大気汚染防止法、特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律、水質汚濁法、土壌汚染対策法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、資源の有効な利用の促進に関する法律(資源リサイクル法)、絶滅のおそれのある野生動植物の保存に関する法律など、環境や野生動植物の保護を理念に掲げ、様々な許認可権限と是正措置等の命令権限等を規定している。

これらの規定を根拠に、一定の実績のある環境保護団体に訴訟手続き上当事者として手続きに関与することを認めるために、団体訴訟の根拠規定と訴権を有する団体の具体的な要件を規定する所要の規定を整備するべきである。

エ 福祉に関する分野

精神障害者福祉、児童福祉、老人福祉分野についても、従前からさまざまな民間非営利団体が活動してきた分野である。今日、介護保険法の制定などにより、適正な行政運営を求める声はますます強まってくると思われる。この分野における適正な行政権限の行使のためには、福祉を受ける当事者だけでなく、これに関心を寄せて活動を重ねてきた非営利団体等に、許認可の取消し、改善命令の義務付けなどの行政訴訟を提起する主体的権能を与えることは極めて有意義である。

以上


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