2003.5.2
「なお、政府は、現行の人権擁護制度を抜本的に改革するため、2002 年3 月、人権擁護法案を国会に提出した。この法案では、性別による差別的取扱いやセクシュアル・ハラスメントを含む差別・虐待等の人権侵害を禁止するとともに、新たに独立行政委員会として設置する人権委員会を主たる担い手とする新しい人権救済制度を創設し、人権侵害による被害の適正かつ迅速な救済・実効的な予防等を図ることとしている。」(第5次報告書(日本語訳)P12)
政府が報告している人権擁護法案は下記の問題を含んでいる。
国内人権委員会の救済対象として、私人による人権侵害と公務員による人権侵害が同列に扱われている。公務員による差別と物理的虐待は特別調査などの対象とされているが、公務員がその他に起こしうる広範な人権侵害については規定されていない。文書提出や立ち入り調査などの特別調査についても公務員はそれに応じる義務は明記されておらず、単に私人と同様に過料の規定があるだけである。
法案では委員会は法務大臣の所管に属し、法務省の外局として位置づけられる。 しかし一方で法務省は入国管理局や矯正局を擁し、これらの局は入国管理センターや刑務所・拘置所での虐待など、国内人権委員会に諮られるべき人権侵害事件を頻繁に起こしている。国連拷問問題特別報告官が国連人権委員会に提出した最新の報告では難民に対する重大な非人道的処遇について警告している。従って法務省自身が国内人権委員会を所管することは、委員会がこれらの事件を公平に扱うことを妨げることになる。
さらに委員会の実務を担う事務局の構成や任用について明文規定は存在せず、事務局を政府役人が占める可能性もある。
前述の公務員による人権侵害に対する救済措置の不充分さを考え合わせても、この法案では、委員会が政府から独立し、政府による人権侵害を検査できるとは到底期待できない。
法案は、雇用・労働条件における女性差別を管轄から除外し、従来どおり厚生労働省にその任務を委ねている。これは実質的な現状維持を意味し、この分野の救済には何ら新しい措置が執られないということである。また厚生労働省で救済を担当する紛争調停委員会はあくまで利害調整のための機関であり、人権侵害事件の調停にふさわしいとは言えない。被害を受ける女性からすればこうした省庁間の「役割分担」は無意味であり、特に障害がない以上国内人権委員会が管轄すべき事項である。
このように現法案は実効性に限界があり、従って条約2条C号に定められた実効的な救済措置とは言えない。
○対象行為
女性差別に限らず、人種・門地・障害など広範な範囲の人権侵害を対象にしている。女性差別に対しては、性別を理由にして、公然と差別的取り扱いをしたり、侮辱・嫌がらせ・虐待・性的虐待を行ったりすることが禁止され、それらによる被害は委員会による救済の対象となる。
○救済措置
委員会は上記の対象行為全てに関し、被害者に対する助言・法律扶助の斡旋、加害者に対する説示・啓発を行うことが出来る。
更に特定の行為に対しては、委員会は特別調査(関係者への出頭・文書提出要請や立ち入り調査)・調停・仲裁・勧告・訴訟参加を行うことが出来る。
但し、事業主による雇用及び労働条件に関する差別的取り扱いは人権委員会の救済対象から外され、現在と同じく厚生労働省に委ねられている。
特別調査に応じなかった者には30万円以下の過料が処せられる。
○女性拘置所への男性職員の立ち入り
拘置所の女区において男性職員が日常的に巡回を行っている。入浴時間中に巡回したり、施設によっては排便の様子が巡回している職員に見え、男性職員に見られたという事例も報告されている。
○未決勾留者に医療を与えず流産
1997年超過滞在で逮捕された中国人女性は、逮捕後妊娠に気づいた。代用監獄では普通の食事を受け付けないため、果物や牛乳を求めたが拒否された。その後東京拘置所に移されたが、下腹部の痛み・出血がおこったため、女性は医師の診察を求めた。しかしこれも拒否され、流産に至った。
○テオ=ファン=ボーベン国連人権委員会拷問問題特別報告官の報告
報告官は入管当局による難民の非人道的扱いについて触れ、警告している(E/CN.4/2003/68/Add.1)。報告は、入国管理センターや国際空港内の上陸防止施設における難民への虐待が常態化していることを示す証言をいくつか引用している。