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裁判員制度と取材・報道の自由に関する意見書

2003.3.20


2003年3月20日

司法制度改革推進本部
裁判員制度・刑事検討部会
委員殿

東京都港区愛宕 1-6-7
愛宕山弁護士ビル 306号
社団法人 自由人権協会
代表理事更田義彦
弘中惇一郎
紙谷雅子
田中宏


裁判員制度と取材・報道の自由に関する意見書

私たち自由人権協会は、裁判員制度の制度設計に関する貴部会の検討結果に大きな関心を抱いているものであります。3月11日開催の会合で提示された素案には、重要な論点が数多く含まれていますが、そのなかの「3 裁判員等の義務及び解任」「7 罰則」「8 裁判員の保護及び出頭等に関する措置」には、取材・報道を直接・間接に規制する方向が示されています。

当協会は、刑事裁判の取材・報道の問題、ならびに法廷侮辱制度に関するこれまでの検討を踏まえ、裁判員に対する影響や保護を理由として、法による取材・報道規制をすることに強く反対するとともに、貴部会がこの問題について改めて詳細検討を行われることを要望するものであります。

英米ほか諸国で、これまで「法廷侮辱」に刑事罰を規定し、メディアの裁判への影響、とりわけ陪審員への予断を排除するために、裁判に関する報道を制限する手法がとられてきました。しかしこうした規制が公正な審理を確保するために必要不可欠なものなのか、あるいは日本になじむ制度なのか、慎重に検討する必要があります。

素案では、(1)裁判員の守秘義務、(2)裁判員の個人情報の保護、(3)裁判員への接触規制、(4)裁判の公正を妨げる行為の禁止の各項目についてに、それぞれ取材もしくは報道の規制を定めていますが、以下の通りそのいずれにも大きな疑問があります。

  1. 議論の前提としての、裁判員(一般市民)が職業裁判官に比して予断を受けやすいとの点は、実証的な調査結果がなく説得力がありません。問題ある取材・報道については、現行の刑法等の規定で取り締まることが十分可能であり、新たな立法措置を必要とする立法事実が希薄であります。
  2. 裁判が予断を抱かないようにするには、報道規制以外の手法、具体的には、裁判員の再選定、裁判地の変更等で対処すべきであります。法廷侮辱罪のある米国でも、適用時の判断基準を厳格化することで、実際に裁判所が報道禁止命令を発することは稀な状況にあります。判断基準が曖昧なまま一般的な規制根拠を設定することは、広範に表現の自由を規制する危険が高まり、違憲の疑いが強いと考えられます。
  3. 英国でも、法廷侮辱罪による表現の自由を規制することについては強い批判があり、運用ルールを継続的に変更し、自由な報道を拡大してきています。また、適用に際しては司法界と報道界の間で行き過ぎを防止するためのガイドラインが制定されており、こうした実態を考慮しないまま法規制のみを導入することは過度な表現規制を生むことになります。
  4. 裁判員に守秘義務を課すことを当然視するかの意見も疑問であります。米国の陪審員に守秘義務を課していない例などを参考として、当該規定の正当性を改めて吟味する必要があります。関与事件について無制限に守秘義務を課したり取材禁止を行うことは、司法情報への正当なアクセス機会を奪う危険性が高いと考えられます。

なお、素案ではこうした規制に罰則を設けず訓示規定にすることで、メディアへの一定の配慮を示したと解釈する向きもありますが、しかしながら訓示規定であっても法規制を行う事実に変わりはなく、実際の報道において萎縮効果をもたらすことは明らかであります。現在議論されている司法制度改革は、「一審2年以内ルール」にあらわれているとおり、審理のスピードアップを大命題に掲げており、これらは往々にして被疑者・被告人の権利保障をおろそかにする危険性を孕んでいます。むしろそうした危険性をチェックする意味でも、司法に対する国民の監視をより一層強化する必要があることは言うまでもありません。

したがって、現在以上にメディアの司法に対するアクセスを強化しこそすれ、それらを弱体化する方向での立法措置には強く反対いたします。

以上


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