
2002.10.4
| 代表理事 | 更田義彦 |
| 同 | 弘中惇一郎 |
| 同 | 紙谷雅子 |
| 同 | 田中宏 |
社団法人自由人権協会は、貴検討会で議論を行っている行政訴訟制度の改革に関し、「Amicus Curiae(裁判所の友)制度」及び「情報公開訴訟等におけるインカメラ審理手続等」の導入を提言します。
Amicus Curiae(裁判所の友)とは、裁判の当事者(参加人を含む)以外の第三者が裁判所の適正な判断の形成を補助するために、事件の処理に有用な意見や資料を提出することを認める、市民の司法参加の制度です。 行政事件訴訟法の改正にあたり、Amicus Curiae 制度を導入することとを提言します。
(1)Amicus Curiae が行政訴訟に必要・有用とされる理由の第1は、公益の実現を存立の基盤としている行政の活動について、Amicus Curiae により、当該公益にかかわりのある市民の参加を得て、裁判所が広く意見と資料を収集し、適正な判断を形成することが可能となり、これによる市民の司法への信頼を醸成することができることです。
行政訴訟においては、当事者だけでなく、判決の結果に対し事実上の利害を有する市民や公益的見地から関心を寄せる市民が多数存在する場合があります。事件によっては、裁判所の判断が、先例として将来の判断に影響を及ぼすだけでなく、市民の社会生活に大きな影響を及ぼす場合があります。このことは、差別、表現の自由、宗教の自由、消費者の権利、環境保全などに関する訴訟を想起するならば、明らかです。
このような場合に、裁判所が、裁判の直接の当事者のみならず、公益の観点から判決の結果に関心を寄せる人々の意見を判断の参考とすることは、適正な判断の形成のために極めて有益であり、また、必要でもあります。
次に、Amicus Curiaeは、当事者の訴訟遂行能力を補充し、公平で適正な裁判を確保することに役立ちます。行政訴訟において、私人は、その証拠収集能力や人的・物的資源の点で、行政機関側と比較して極めて不利であることは否めません。Amicus Curiaeによって、このような訴訟遂行能力の不均衡を是正し、行政訴訟における当事者の対等性を回復することが期待されます。
さらに、Amicus Curiaeは、裁判所の調査活動の補充機能を果たし、適正な判断の確保を担保することにもなります。行政の複雑化・専門化に伴い、裁判所には、様々な専門的分野における法的判断が求められる場面が多くなっています。専門知識を有する個人や団体がAmicus Curiaeによって訴訟に関与するならば、裁判所にとって、前例のない問題あるいは困難な問題について適正な判断をするために有益でありましょう。国内的な視点からだけではなくAmicus Curiaeは、国際化の観点からも役立ちます。グローバリゼーションの進展によって、外国法を解釈したり、外国の文化、習慣、制度を前提に裁判を進める必要のある場合が出てきますが、外国の事情に通暁している個人や団体がAmicus Curiaeとして意見書を提出できるならば、これによって適正な判断の形成が可能となり、日本の裁判制度への信頼も増すことは疑いありません。
(2)Amicus Curiaeが行政訴訟に必要・有用とされる第2の理由は、これが市民の司法参加を実現する制度でもあるからです。
裁判の直接の当事者ではないとしても、社会的に広い影響や公益に重大なかかわりのある事案について、意見を述べ資料を提供できる個人や団体が存在することは多いと考えられます。市民が裁判に直接関与できることになるAmicus Curiaeは、市民の司法に対する関心を引き寄せる大きな原動力になると考えられます。これからの社会の公益的活動は、NPO法人などの団体などによって担われることが多くなると考えられますが、様々な分野で専門的知識や経験を蓄積した市民団体がAmicus Curiaeの制度によって、司法に参加し、裁判所の適正な判断の形成に寄与することができるならば、司法の国民的基盤の確立にとっても有益であると考えられます。
(3)なお、当協会のAmicus Curiae制度の具体案は、司法改革審議会あての意見書に示してあります。また、当協会会員らの論稿『アメリカ連邦最高裁判所におけるAmicus Curiae』も同意見書に添付しています。
行政事件訴訟法の改正にあたり、情報公開法や個人情報保護法などによる行政文書の開示請求に対する不開示処分の取消訴訟について、裁判所の権限として、次のような趣旨の規定を設けることを提言します。
(1)行政機関情報公開法は、行政改革委員会が答申した「情報公開法要綱案」に基づいて制定されましたが、同委員会の「情報公開法要綱案の考え方」(以下、「考え方」といいます)は、「司法救済上の諸問題」のなかで、「インカメラ審理その他の訴訟手続の特則について」として、以下のとおり指摘しています。
「情報公開訴訟手続において、インカメラ審理、すなわち、相手方当事者にもその内容を知らせない非公開審理の手続を設けることについては、適正・迅速な訴訟の実現のため、その有効性や必要性が指摘されている。裁判官が問題となっている行政文書を実際に見分しないで審理しても、訴訟当事者の納得を得難いのではないかと考えられるほか、機微な情報が問題となっている場合には、その具体的な内容に立ち入らずに、公開の法廷において、処分の適法性を十分に主張・立証することの困難も予想されるところである。
しかしながら、この種の非公開審理手続については、裁判の公開の原則(憲法第82条)との関係をめぐって様々な考え方が存する上、相手方当事者に吟味・弾劾の機会を与えない証拠により裁判をする手続を認めることは、行政(民事)訴訟制度の基本にかかわるところでもある。また、情報公開条例に基づく処分の取消訴訟や公務員法等の守秘義務違反事件の訴訟では、この種の非公開審理手続なしに、立証上種々の工夫をすることなどが現に行われており、情報公開法の下では、不服審査会における調査の過程で得られた資料が訴訟上活用されることも期待されるところである。
そこで、本要綱案では、インカメラ審理の問題について取り上げなかったが、今後、上記の法律問題を念頭に置きつつ、かつ、情報公開法施行後の関係訴訟の実情等に照らし、専門的な観点からの検討が望まれる。」
(2)その後制定された行政機関情報公開法においては、インカメラ審理手続は採用されず、検討課題として残りました。
「考え方」が指摘したとおり、情報の不開示処分の取消訴訟において、インカメラ審理は極めて重要であり、インカメラ審理によって当該文書を見分することなしに、不開示の是非について適切な判断をすることは困難です。行政機関情報公開法や独立行政法人等情報公開法あるいは地方自治体の情報公開条例による行政文書不開示処分取消訴訟だけでなく、現在国会に提案されている行政機関個人情報保護法や独立行政法人等個人情報保護法あるいは地方自治体の個人情報保護条例による本人情報不開示処分取消訴訟の訴訟手続の実効性を確保するためにも、インカメラ審理を、早急に行政事件訴訟法に規定するべきであり、これと合わせてヴォーン・インデックス手続も規定すべきであると考えられます。
(3)もっとも、「考え方」は、「この種の非公開審理手続については、裁判の公開の原則(憲法第82条)との関係をめぐって様々な考え方が存する」ことを指摘しています。これについて、当協会は、情報不開示処分取消訴訟等の原告の裁判を受ける権利(憲法第32条)を保障するうえで、インカメラ審理は必要不可欠であり、前記のような規定による公開法廷での手続であれば、憲法82条には違反しないと考えます。また、「相手方当事者に吟味・弾劾の機会を与えない証拠により裁判をする手続を認めることは、行政(民事)訴訟制度の基本にかかわるところでもある」との意見(「考え方」)については、ヴォーン・インデックス手続によって、不開示とされた情報の項目とその理由を行政機関側に具体的に示させることにより、問題はかなり解消できるのではないかと考えます。
(4)また、「考え方」は、「情報公開法の下では、不服審査会における調査の過程で得られた資料が訴訟上活用されることも期待される」としていますが、これまでの情報公開法の運用の実情からは、このような期待は現実のものとはなっていません。
2001年4月に情報公開法が施行され、2001年度は、開示請求受付件数は4万8650件、開示決定等件数4万5071件、うち開示決定2万5130件(55.76%)、部分開示決定1万4865件(32.98%)、不開示決定5067件(11.26%)、不服申立件数1342件、うち情報公開審査会への諮問384件、答申178件、訴訟件数14件という運用状況にあります。しかし、答申178件のうち原処分の全部又は一部を維持した答申について、不服審査会の過程で得られた資料を直ちに訴訟上活用したことが明確な事例は、当協会の調査の限りにおいては見受けられません。むしろ、不服申立件数が大量にあり、これが直ちに情報公開審査会へ諮問されずに、処分庁に滞留しているため、不服申立てを避けて直接訴訟を提起する事例も見受けられます。情報不開示処分取消訴訟等は、不服申立前置主義を採っていないのですから、訴訟手続においても、インカメラ審理とヴォーン・インデックス手続が採用されるべきであります。
(5)さらに、当協会はJCLU情報公開法モデル大綱を提言した際に、インカメラ審理とヴォーン・インデックス手続が訴訟手続として採用されないことにより情報公開条例による訴訟が遅延していることを指摘しました。現在、最高裁判所に約50件の情報公開条例に基づく不開示処分取消訴訟等が継続している事実を考えあわせると、「立証上種々の工夫をすること」(「考え方」)にも限界があるといわざるをえません。
国民の適正かつ迅速な裁判を受ける権利を保障するうえでも、インカメラ審理とヴォーン・インデックス手続が採用されることが必要不可欠です。
以上のとおり提言します。