
2002.4.23
自由人権協会は、特定の政治的立場からではなく、あらゆる人々の自由と人権を擁護することを目的とする市民団体として、政府が国会に提案した条約の批准案件及び法律案について、次のとおり意見を申し述べます。
国家や国際機関に対し一定の行為を強要する目的で人を殺傷する行為は、一般に容認することができない。したがってかかる行為を行おうとする者に対する資金の供与を制圧することには、極めて重要な意義がある。
しかしながら、このような資金供与を犯罪として禁圧するについても、基本的な自由と人権を尊重する観点から、その手段方法等を慎重に検討すべきことは言うまでもない。
ところでテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約の批准に伴う国内法として政府が国会に提案した「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律案」は、これらの検討が不十分であり、罪刑法定主義、構成要件の明確性を求める刑事司法の原則に違背し、この法律が施行されれば思想良心の自由、信教の自由等を侵害する虞があり、戦争その他国家による武力の行使による犠牲者に対する人道的な国際的救援活動を制約する虞もある。
よって自由人権協会は、条約の性急な批准と法律案に反対し、問題点の慎重な再検討を要求するとともに、自らも法律制度の改善に努力する所存である。
条約は、規制すべき殺傷行為を、市民を威嚇し又は政府もしくは国際機関に対する一定の行為の強要を目的とするものとし、テロリズムに対する資金の供与を防止するとしている。
しかしながら、今日、テロの定義について国際的に共通の認識があるとは言えない。
たとえば南アフリカのアパルトヘイトに反対する活動、あるいは東チモールの独立を求める活動は、かつては政権側からテロリストとして弾圧を受けたことは、記憶に新しいところである(この点については、条約が圧制に対する抵抗の権利をどのように捉えているか、明確ではない。条約6条参照)。
また、昨今のイスラエルとパレスティナとの紛争における武力の行使等による人の殺傷行為は、国際社会においても立場によって評価が分かれるところである。事実、昨年から今年にかけて国連における包括的テロ防止条約の審議の過程で、テロの定義をめぐって紛糾し、今後、同条約起草の見通しは立っていないと伝えられている。
この条約は、締約国が「規制の対象とされる集団の意図を知って資金を供与する行為等」を犯罪として禁圧するものとしている。しかしながら、規制の対象の不明確性に加え、いかなる事情を知って資金を供与する行為を犯罪とするのか、不明確である。
以上の点に加え、国際社会においても、未だアメリカ、ドイツ、ロシア、中国等を含む大多数の諸国がこの条約を批准していない。このような現状においては、日本も批准にあたっては、国内法の整備など慎重な検討を尽くすべきである。
この法案は、「情を知って、公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的で資金を提供する行為」(2条)と、「犯罪行為の実行のために使用する目的で、資金の提供を要求し、もしくは勧誘し、又はその他の方法により、資金を収集する行為」(3条)を犯罪としている。
しかし、規制の対象とされるテロか否かは、捜査機関が個々の事件の立件の段階で個別的に認定する構造となっている。そのため、国際的な人道的救援活動が、テロリストの犯罪行為の実行を容易にする活動とみなされる虞もなしとしない。 更に、「情を知って」の要件も、いかなる事実を知ることを要するとされるのか、極めて曖昧である。
しかも、資金の提供は、金額の多寡を問わないものとされており、市民の国際的な募金活動に対する日常的なカンパであっても、それがこの法律によって犯罪とされる虞も否定できない。
そうであれば、思想や良心あるいは宗教的信条にもとづいて、パレスティナの民族解放運動、アフガン、チェチェン等の難民の支援、チベットの独立運動、ミャンマーの軍政に対する反対運動等に共感し、国内の市民団体等がそれぞれの目的で寄付金を募り、関係する外国の団体に送金した場合に、これがテロに関連した団体に資金を提供したとされ、逮捕、捜索等の強制捜査の対象とされる懸念がある。
以上の次第であるから、上記条約批准案については慎重な検討を要請し、かつ上記法律案に対してはその成立に反対する。