
2002.3.25
政府が今国会に提出した人権擁護法案について、当協会は、以下のとおり意見を述べます。
「パリ原則」に則り、国内人権委員会を設置し、日本国憲法や国際人権諸条約によって保障された基本的人権の侵害に対する救済や予防、人権啓発措置などを定める人権擁護法を立法することは、あらゆる人々の基本的人権の保障を実現するため極めて重要なことであり、当協会は、2000年4月10日に「人権委員会設置法案」を発表し、その立法化に取り組んで来ました。
このたび政府が、人権擁護推進審議会の答申にもとづき人権擁護法案を取りまとめたことそれ自体については、人権擁護を推進する動きとして率直に評価したいと考えます。
政府案には、当協会の提案が取り入れられた部分があり、委員の構成につきジェンダーに関する規定を設けたこと、事務局職員に弁護士となる資格を有する者を加えなければならないとしたこと、人権擁護委員を人権団体の構成員の中から推薦しなければならないとしたこと、多様な救済手段を定めたこと、訴訟参加などの訴訟援助の制度を設けたことなど、注目すべき点もあります。
しかし、政府の人権擁護法案には、以下に述べるように、いくつかの重大な問題があり、このまま法律として立法することはとうてい容認できません。
以下の点を中心に再検討し、抜本的な修正を加えたうえで、法案を再提出することを強く求めます。
人権委員会を国家行政組織法3条2項の独立行政委員会としたことは評価できますが、法務大臣の所轄に属するとし(5条2項)、法務省の外局としたことには容認できません。
法務省の管轄下には拘置所、刑務所、入国者収容所など人の身柄を強制的に拘束する施設があり、法務省は人権救済事件の当事者となることが予定されており、人権委員会を法務大臣の所轄とすることは、人権委員会の独立性に疑念を生じさせることになります。この点において政府案には重大な問題があるといわざるを得ません。
人権委員会は内閣総理大臣の所轄とし内閣府の外局とするべきです。
人権委員会に事務局を置くとする一方、事務局の地方機関として地方事務局を置くとし、その事務を法務省の地方法務局長に委任することができるとしていますが(16条)、これは人権委員会の独立性に反するものといわざるをえません。人権委員会の事務局職員は、相談(37条2項)、一般調査(39条2項)、強制力を伴う特別調査処分(44条2項)などを職務とするものであり、政府機関からの独立性を確保することが重要です。
したがって、人権委員会の地方機関として地方事務所を置くものとし、地方法務局長その他の政府機関への事務の委任はするべきではありません。
政府案は、報道機関やその業務に従事する者による特定の者に対するプライバシー侵害や名誉毀損の報道、及び特定の者に対する生活の平穏を害する取材行為を、強制力を伴う特別救済手続の対象としていますが(42条1項4号)、報道機関の取材や報道は人権委員会の救済手続の対象とするべきではありません。仮にそれを対象とするとしても一般救済手続の対象とするにとどめるべきです。
法案が定める救済手続、ことに強制力を伴う特別救済手続は、行政機関が報道機関の取材活動や報道内容を直接規制しようとするものであり、表現の自由及び検閲の禁止を定めた憲法21条に抵触するという重大な問題を含んでいます。
マスメディアによる名誉毀損やプライバシー侵害、過剰取材による私生活の平穏の侵害等の問題が指摘されているのは事実ですが、これらは差別取扱いや虐待などの人権侵害と同列に扱うべきものとはとうてい考えられません。表現の自由は民主主義社会の根幹をなすものであり、また、報道機関は社会に生起する様々な事象について人々に情報を伝達しあるいは様々な考え方を紹介し、国民の知る権利に応える役割を担っているものです。表現の自由や報道の自由を確保することは極めて重要であり、国家機関による取材・報道の自由に対する介入は極力排除するべきであり、取材や報道による人権侵害については、報道機関の自主的な規制や救済に委ねるほか、司法手続による救済が図られるべきです。
政府案は、特定の者に対する差別的言動や、不特定多数の者に対する差別取扱いを助長する表現行為などを、強制力を伴う特別救済の対象としており、後者については差止請求の対象ともしています。差別的言動や差別を助長する言動が人権救済の対象として検討されるべきものであるとしても、民主主義社会における表現の自由の重要性に鑑みると、行政機関による強制力を伴う規制の対象とすることは慎重であるべきであり、特別救済の対象や差止請求の対象とするべきではないと考えます。
以 上