
2002.2.19
当協会は、既に、1987年1月に、個人情報保護法・モデル案(以下、「人権協会案」という)を作成、発表し、その解説とともにこれを公にしている。
人権協会案は、作成後15年を経過しているが、現在の個人情報を取り巻く諸問題に十分対応できるものであり、当協会としは、基本的には現在でもこれを当協会の提案する意見として維持するものである。
この度、政府の行政機関等個人情報保護法制研究会が、行政機関等の個人情報保護法制について意見(以下、「意見書」という)を公にしたので、人権協会案を踏まえながら、また、同案作成当時検討を行っていなかった諸点についても、意見を述べることとする。
意見書には、センシティブ情報の収集、利用又は提供についての規制が欠落している。確かに、意見書が言うように(9頁)、収集等の目的の明確化によってセンシティブ情報の収集等を制限することも可能であろう。しかし、情報主体の権利の保護を強化するという観点からは、情報の種類、性質によってはその収集等を制限すべき機微な情報として明示した方がよいと考える。
何をセンシティブ情報に内包させ得るか、範疇化が困難だとの見解もありえる。しかし、例えば、部落差別という問題が現に存在するように、特定の情報が収集等されることにより権利侵害が惹起されることは容易に想起し得る。この例における本籍地についての情報は、やはりその収集等についての情報主体の明確な同意がある場合、法令に特別の規定がある場合及び司法手続上必要不可欠である場合などに限定すべきだと考えられる。ほかにも、現実の社会においてその情報が収集等されることにより権利侵害が惹起されやすい機微な情報については、それを明示して規制すべきである。
人権協会案においても、その第4条2項にセンシティブ情報を列挙して、特別な規制を設けているが、これらの情報は、多数の地方公共団体の条例中にも挙げられており、既に保護されるべきセンシティブ情報として一般の理解が得られているものと考えられる。
意見書には、取得時における規制において、「行政機関は、本人から直接、書面等に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は・・・」という表現を用い(6頁)、直接収集が原則だとも例外だとも明示するものではない。直接収集を原則だとして明示すべきである。
不正取得の規制も不十分である。
「行政機関による個人情報の取得が、適法かつ適正な手続によらなければならないのは、日本国憲法の下では特別の法律を待たずとも当然要請されるところである」(意見書9頁)というのは、楽観的に過ぎる安易な発想である。「個人情報保護基本法制に関する大綱」は、適正な取得を、公的部門にも適用される基本原則とすることを要請し、これに基づく「個人情報の保護に関する法律案」5条が立案されているが、この趣旨は、国民・住民からの信頼保持のために行政機関にも民間部門と同レベルの規制にかからせようとするものである。したがって、不正な取得の例を明示的に列挙して規制すべきである。
意見書は、訂正等の請求の対象となる保有個人情報は、開示を経ていることが必要であるとする(17頁)。しかし、情報の特定は、訂正等の請求書を補正する過程で確保すれば済むことであるから、開示を要件とすべきではない。
また、意見書では、訂正等の決定に関わる調査および訂正等の決定を行う場合を、「当該保有個人情報の利用目的の達成に必要な範囲内」に限定している(17頁)。しかし、行政機関が誤った個人情報を保有し続けることに正当性は何ら認められないのであるから、自己情報コントロール権の保障を貫徹する観点から、「利用目的の達成に必要な範囲内」という限定を付すのは適当ではないと考えられる。
意見書は、開示及び訂正等の請求に係る保有個人情報が他の行政機関等から提供を受けたものであるときなど、請求を受けた行政機関の長自らが請求事案を処理するよりも、提供元などの行政機関の長などの方が、迅速かつ適切に当該事案を処理できる場合は、情報公開法と同様、事案の移送の仕組みを設けることを明らかにしている(21頁)。
しかし、個人情報を収集し、利用しておきながら、「迅速かつ適切に処理できる」ことを理由に、他の行政機関等に判断を委ねるのは、いかにも無責任である。この意味では個人の利益に直結しない行政情報の公開の問題とは性質が異なり、同列に扱うべきものではない。
したがって、開示および訂正等の請求者が、請求時に「請求を受けた行政機関の長」の判断を明示して求めた場合は、事案を移送できず、自ら判断することを義務づける制度とすべきである。これにより、行政機関同士が安易に個人情報の提供を受け合うことに慎重になるとともに、個人情報を責任感を持って取り扱うことになると考えられる。
意見書は、「医療情報等の開示の実施に当たり、関係省庁は、必要な場合に医療等の専門家の説明が加えられる仕組みについて検討すべきである」(22頁)としている。
個人情報の開示にあたり、その内容の把握ができなければ、開示も無意味になる。さらに、有意性があると判断して情報を収集しておきながら、その情報の意味内容の分析を情報主体に負担で行わせるのも不当な取扱いである。
したがって、意見書の姿勢については、十分評価すべきである。ただ、その対象となる情報は、「医療情報等」と限定している点は疑問であり、その限定ははずすべきである。あらゆる情報について、その意味内容が把握できるような開示の実現をしてこそ、自己情報コントロール権が保障されることを銘記すべきである。
意見書は保有個人情報の訂正等の決定をした場合、「必要があると認めるときは、経常的提供先その他通知が必要と判断する提供先」に対して、訂正の内容等を通知することとしている(23頁)。
しかし、情報が転々と流通することを考えると、特定の場所における情報の訂正だけを行っても、無意味な場合も多く、誤った情報を保有していた行政機関には、情報主体の誤情報の流通を阻止すべき責任を負わせるべきである。したがって、訂正等の決定の提供先への通知は、「必要があると認めるとき」に限定すべきでなく、全ての訂正等の決定を通知することとすべきである。
行政情報の公開請求と異なり、本人開示請求等は、商業利用が考えにくく、憲法13条に基づき、純粋に自己情報をコントロールする権利として認められるものであるので、訂正等及び利用停止等と同様、開示請求についても手数料を徴収しないこととすべきである。訂正請求等は開示請求を前提とする意見書の考えからからすると、なお当然のことである。
人権協会案には、内閣総理大臣所轄のプライバシー審査会を設置すること、審査請求の裁決は、請求受理の日から100日以内とすることが定められているほか、抗告訴訟についても、「100日裁判」の規定(努力義務)がある。
現代の情報化社会において、個人情報が転々流通する性質を有することを考えると、司法的救済も極めて迅速な対応が迫られるのであり、これらは十分検討に値する規定であるといえる。
情報公開法に関する取消訴訟よりも、より個人の利益しかもプライバシーに関する事項に直接関連する事実が争われるため、原告の住所地で裁判を受けることができるよう、原告が提訴しやすい制度を作らなければならない。また、プライベートな問題をできるだけ公にせずに争いたいという心境から、本人訴訟が増えることが想定される。
したがって、通常裁判管轄に、原告の普通裁判籍(原告の住所地等)を管轄裁判所に加えるべきである。
独立行政法人等の法制に関しては、それぞれの法人格の性質に違いがあるからか、統一的な取扱いを行うことを放棄している感がある。一定の法規制の射程に入った以上、同様の規制に服するのが望ましいと考える。
例えば、個人情報ファイル簿等の作成及び公表等の仕組み、電磁的記録に関する開示の方法などについて、「対象法人における実態に対応しつつ」(30頁)や「各対象法人が定める方法により行う」(31頁)などとしているが、これでは各法人間において、内容にばらつきが生じ、好ましくない。各法人間において統一した方法を定めるべきである。また、開示に関する手数料の徴収についても、それぞれの対象法人が、実費を勘案して、国民が利用しやすい額となるようとしているが(31頁)、それぞれの対象法人ではなく、統一して額を設定すべきである。
以 上