
2002.2.1
司法制度改革推進本部
本部長 小泉純一郎様
司法制度改革審議会が2001年6月12日に発表した「意見書 21世紀の日本を支える司法制度」について、当協会は、協会内の「市民と司法改革プロジェクト」の検討を経て、以下のとおり意見を提出いたします。
検討会議での具体的な制度作りにおいて、ぜひ取り上げていただきたくお願い致します。
市民に司法参加の機会を保障し、裁判において有益な意見を述べる機会を市民に与えることにより、より公正な裁判を行うことができるよう、訴訟の当事者以外の者が当該訴訟について裁判所に意見書を提出できるアミカス・キュリエ(裁判所の友)制度を導入すべきである。
改革審意見書は、「U.国民の期待に応える司法制度」として、裁判の"当事者"としての国民の司法参加を検討し、また「W.国民的基盤の確立」として、いわゆる「裁判員」制度の新設を提言することにより、裁判の"審判者"としての国民の司法参加を検討しています。
しかし、「21世紀の我が国社会にあっては、司法の役割の重要性が飛躍的に増大する」と考えられることから、国民の司法参加のいわば第三の道として、裁判についての"第三者"としての司法参加制度についても十分検討される必要があります。この点について改革審意見書は、「(V.第5.4.)裁判所運営への国民参加」を提言していますが、裁判そのものへの国民の参加はそれ以上に望ましいものと考えられますので、そのような方法として、Amicus Curiae制度(以下「アミカス制度」と表記)の導入を再度提言致します(自由人権協会はすでに2000年9月20日付意見書及び2001年1月24日付意見書で、改革審あてにアミカス制度導入を提言しています。詳細は同意見書をご参照ください)。
上記の司法参加の第三の道に関して、改革審は「W.第1.2. その他の分野における参加制度の拡充」として、「専門委員制度」の導入を示唆し、また、現行法上の専門家活用制度である鑑定制度の改善を提言していますが、専門委員や鑑定人という各種専門領域における「専門家」とは異なる第三者の視点が、広く国民に支持される裁判の実現の為に必要とされる場合も少なくありません。アミカス制度は、当事者以外の第三者(Amicus Curiae)が、事件の処理に有用な意見や資料を提出して裁判所を補助する制度であり、司法の国民的基盤をさらに強固なものとして確立するのに大いに貢献するものと考えられます。
複雑多様な社会で必要とされる統一的なルールとしての「合理的な法」の制定には、法適用の結果不利益を被ることになる当事者からの提訴を契機にして裁判所が司法審査権を行使し、それが国会での再議を促すということが必要と考えられます。司法審査権の正当な行使には、当該訴訟の適正な判断に必要かつ有益な情報を可能な限り幅広く裁判所が入手することが不可欠であり、アミカス制度はまさにそれを可能にする制度だと言えます。今後司法の果たす役割が飛躍的に増大し、司法への期待が内外から高まっていく我が国においては、アミカス制度の導入を真剣に検討する時期が到来していると考えます。
裁判員の参加を被告人が辞退することを認めることを検討すべきである。
改革審意見書は、「刑事訴訟手続において、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである」として、裁判員制度の導入を提唱しています。
この制度は、「司法過程への国民参加」を図る見地から当協会が提言してきた陪審員制度と共通の方向を志向しているので、当協会は、その導入に基本的に賛成いたします。特に、裁判官と裁判員が共に審理に参加することにより、
ことが期待でき、これによる影響は計り知れないものと思われます。
他方、このような全く新しい制度において、最初から完全なものを期待することは不可能であり、改革審意見書も、「実施後においても、当初の制度を固定的にとらえることなく、その運用状況を不断に検証し、国民的基盤の確立の重要性を踏まえ、幅広い観点から、必要に応じ、柔軟に制度の見直しを行っていくべきである」としています。
そこで、この観点から、裁判員制度の実施前に改めて検討されるべき問題点を指摘させていただきます。
それは、被告人による辞退を認めることの可否です。改革審意見書においては、裁判員制度が「国民一般にとって、あるいは裁判制度として重要な意義を有するが故に導入するものである」として、辞退を否定していますが、辞退を認めない場合には、被告人は裁判官以外による審理を強制されることとなります。しかし、裁判員制度がどのように機能するかは未知であり、新たな制度を創設した場合に、旧来の制度を一挙に廃止するならば、国民の不安が残ることは避け難いと思われます。むしろ、裁判官と裁判員が協働する裁判体による審理と、裁判官のみによる裁判体による審理を、当面は並存させ、国民に選択の機会を保障すると共に、その中で前者の制度の改善を図っていく(この制度が真にすぐれたものとなれば、裁判官のみによる裁判体による審理を選択する被告人がいないこととなる)ことも検討すべきであると考えます。
障害者等の裁判を受ける権利を保障するため、尋問環境・尋問方法に配慮した制度を刑事訴訟法だけでなく民事訴訟法にも設けるべきである。 特に、性的被害を受けた知的障害者や幼児について、専門家による尋問制度を訴訟法に設けるべきである。
改革審意見書では、「U第2 刑事司法制度の改革」において、「2 被疑者・被告人の公的弁護制度の整備」の観点から「障害者や少年など特に助力を必要とする者に対し、格別の配慮を払うべきである」と述べられていますが、その具体化については今後の課題とされています。
当協会は、司法改革審議会あての2001年3月30日付意見書において、障害者等の裁判を受ける権利の保障のための訴訟法改正を提案しておりますが、具体化されるべきものの一端を示すものとして検討いただきたく、重ねて意見を述べます。
まず、障害者等に対して「格別の配慮」が必要となるのは、被疑者段階・被告人段階における刑事手続だけではなく、民事訴訟手続においても同様です。
現在、刑事訴訟法においては、付添人制度など尋問環境を整備する制度がいくつか設けられておりますが、コミュニケーションにおいて障害をもつ知的障害者等の民事裁判を受ける権利の保障のためには、民事訴訟法においても尋問環境・尋問方法に配慮する制度を設けることが必要と言えます。
また、当協会の意見書においては、上記の点に加え、特に性的被害を受けた知的障害者や幼児等から適切に証言等を得るために、専門家による尋問の制度を刑事訴訟法及び民事訴訟法に設けることを提案しています。
改革審意見書「U第1 民事司法制度の改革」において「2 専門的知見を有する事件への対応強化」が挙げられているとおり、障害者等の裁判を受ける権利の保障の観点からも、専門家を活用することが図られるべきです。 (当協会の提言の詳細は、司法制度改革審議会あての2001年3月30日付意見書をご参照ください。)
公的弁護制度を導入するにあたっては、少なくとも被疑者段階での公的弁護人の選 任・解任は公的弁護制度の運営主体が行うものとし、一定の限度で被疑者が弁護人を選択できる制度とすべきである。
「被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備すべきである」「公的弁護制度の運営主体は、公正中立な機関とし、適切な仕組みにより、その運営のために公的資金を導入すべきである」との改革審の提言は、刑事司法制度改革の重要なポイントであり、賛成いたします。
しかし、「弁護人の選任・解任は、現行の被告人の国選弁護制度と同様に裁判所が行うのが適切である」との提言部分については賛成できません。
憲法37条3項は「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する」としています。同項は、刑事被告人に対し自ら適切と考える私選弁護人を選択し選任する権利を保障したものですが、貧困その他の理由により自ら選任できない場合には国が弁護人を付すことを規定したものです。したがって、国が弁護人を付す場合も、できるかぎり私選弁護人の選任と同様に弁護人を選択する機会を与えるべきであると考えます。
このことは被疑者段階の公的弁護人の選任についても同様と考えられます。現行刑事訴訟法は、国選弁護人について、「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない」(36条)と規定しており、当該被告人の公判を担当する裁判所(裁判官)が弁護人を一方的に選任するものとされており、解任も裁判所ができるとされていますが、被告人が弁護人を選択する自由をまったく保障されないのであれば、憲法37条の趣旨に反するのではないかと考えられます。少なくとも最良の方法とはいえません。
被疑者段階においては当該事件を担当する裁判所は存在しておらず、また、現行の当番弁護士制では刑事訴訟法78条にもとづき弁護士会あて弁護人選任申し出がなされた場合に弁護士会が弁護人になろうとする者を被疑者のもとに派遣し、被疑者が弁護人を選任しています。
このようなことから、公的弁護制度を導入するにあたっては、少なくとも被疑者段階での公的弁護人の選任・解任は公的弁護制度の運営主体が行うものとし、一定の限度で被疑者が弁護人を選択できる制度とすべきであると考えます。
隣接専門職に訴訟代理権を付与する場合は、弁護士倫理と同程度の法曹倫理を担保できるような措置をとるべきである。
「国民の権利擁護に不十分な現状を直ちに解消する必要性」にかんがみ、司法の利用者の視点から、当面の法的需要を充足させるための措置を講じる必要があるとの現状認識にたって、改革審が一定の訴訟代理権をいくつかの隣接法律専門職種に認めることにより、司法の直接の担い手である法曹の質・量の拡充をはかることを提言したことには賛成致します。
また、限定された範囲とはいえ、弁護士同様の訴訟代理権を認める以上は、「信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与すべきである」との提言にも賛成です。
しかし、もしこの「能力担保措置」の「能力」が、倫理面をあまり考慮しない「知的・技術的能力」を意味しているのなら、司法の利用者である市民の立場としては、そのような「能力」のみならず、訴訟代理に伴う高度の「(法曹)倫理」を備えていることも要求したいところです。そして、倫理の担保に関しては、少なくとも訴訟代理を認められる範囲内において、弁護士倫理と同程度の法曹倫理を担保できるような措置を検討すべきであると考えます。
以上のような訴訟代理の能力および倫理の担保方法のひとつとして、改革審が新設を提言する「法科大学院」での法学教育を活用することを検討すべきものと考えます。具体的には、隣接法律専門職種の者のうち、弁護士に要求される訴訟技術や交渉術等の能力を身につけさせるための教育を行う科目、及び弁護士倫理に関する科目を履修し単位取得した者にのみ、一定の訴訟代理権を付与するという方法を検討してはいかがかと考えます。
法務省は、すでに司法書士に関し、簡裁での訴訟代理権の付与を可能にするための司法書士法改正法案を来る通常国会に提出の予定と報じられています(朝日新聞2001年11月30日朝刊)。それによれば、日本司法書士会連合会が計画を立て、法務省がチェックをしたうえで実施される研修を修了し、面接試験等を経て、最終的に法務大臣によって「訴訟代理能力あり」と認められることが訴訟代理権付与の条件とされています。しかし、訴訟代理人は国ないし法務大臣の監督を受けると自由闊達な訴訟活動を制約されるおそれがないとはいえず、自治的な規律によって訴訟代理能力を担保する方法を採用することが必要であると思われます。そこで、上述のように、「法科大学院」という共通の教育機関で隣接法律専門職種も実務的法学教育を受けることとし、それによって法曹全体の能力及び倫理の底上げをはかる方向を目指すべきではないかと思われます。
さらに、訴訟代理に要求される高度の能力及び倫理の水準を常に維持していくためには、弁護士会の隣接法律専門職種への建設的関与と協力とが有用であると考えられます。例えば、上記の教育上の要件を満たして訴訟代理権を付与された隣接法律専門職種の者は、弁護士会の用意した(そのような者のための)特別の登録名簿に登録を行うこととし、登録後は弁護士会の行う定期的研修を受講し、また懲戒等の規律を定める弁護士会会則に服するものとすることなどが検討されてよいのではないかと考えます。これも前述の法曹全体の底上げという方向を目指すものであり、このような制度改革により、隣接法律専門職種に対する社会的評価が現在よりさらに高まるものと期待できます。
司法に関する情報公開の推進
(改革審あて2001年1月24日付意見書参照)
最高裁判事の選任のありかた及び最高裁調査官の給源の多様化
(改革審あて2001年3月30日付意見書参照)