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司法制度改革審議会中間報告への意見書22001.3.30 司法制度改革審議会 会長 佐藤幸治様
2001 年 3 月 30 日
東京都港区愛宕 1-6-7 愛宕山弁護士ビル 306号 社団法人 自由人権協会 代表理事 内田剛弘 同 金城清子 同 江橋崇 同 更田義彦 同 秋山幹男 社団法人自由人権協会は、貴審議会の中間報告について、以下のとおり意見を述べます。
第1 最高裁判所判事の任命、及び最高裁判所調査官について1.最高裁判所判事の任命に関する問題状況司法改革審議会における裁判官の給源の多様化の議論は、これまで主として下級裁判所の裁判官について集中しているように思われます。それは一面では最高裁判所判事については、制度上、給源が多様であり(裁判所法第41条)、制度改革の対象とならないと考えられているためでもありましょう。しかし、実際の最高裁判所判事の任免の実情を見れば、下級裁判所裁判官の給源に関するのと同様の問題があると考えられます。 もともと、最高裁判所判事については、「識見の高い、法律の素養ある年齢40年以上の者」から幅広く任命されることが予定されており、現にこれまで職業裁判官だけではなく、弁護士・検察官・法学者・外交官・行政官など幅広い背景を備えた人物が最高裁判所判事に任命されてきました。このことは広義の法曹一元の要素を取り入れたものとしても高く評価できると思います。 そもそも、日本国憲法の下、最高裁判所は、上告審裁判所と憲法裁判所の二つの機能を果たすことを予定しています。特に憲法裁判所の機能に着目すると、最高裁判所は違憲審査権を終審裁判所として行使する強大な権力を有する機関といえます。 最高裁判所が違憲判断を下すときはもちろんのこと、合憲判断を下すときも、その権限行使の正当性が問われることとなります。日本国憲法の予定するようにこの制度が適切に機能するためには、国民の間に最高裁判所に対するシステム・サポートが存在することが必要です。 ここでは、個々の判決の妥当性ではなく、特に最高裁判所という制度自体に対する国民の支持をどのように取り付けるかという点を指摘したいと思います。 この観点から問題になるのは、第1に、最高裁判所判事の任命手続であります。民主的に選択された代表で構成される国会に信任された内閣が、最高裁判所長官に関しては指名し(憲法第6条2項)、それ以外の最高裁判所判事に関しては任命する(憲法第79条1項)ことになっています。 しかし、このように行政権が単独で最高裁判所判事を任命するのは、他国と比較しても、極めて例外的な方式です。実際にも、最高裁判所判事に対する国民の「民主的統制」は、一般に、極めて稀薄なものになっていると受けとられています。 たとえば、アメリカ合衆国では、連邦最高裁判所の裁判官の任命は、大統領が上院の「助言と承認」を得て行うことになっています(アメリカ合衆国憲法第2条2節2項)。 またドイツ連邦共和国では、まず、連邦最高裁判所の場合には、連邦大臣が裁判官選出委員会と共同して裁判官の任命を決定することになっており(ドイツ連邦共和国基本法第95条2項)、つぎに連邦憲法裁判所の場合には、その裁判官は連邦議会及び連邦参議院によって半数ずつ選出されますが、その際、注目すべきことは投票数の3分の2が選出の要件とされております(同基本法第94条1項2文、連邦憲法裁判所法第6条)。この方法は、民主的正統性の確保と一方的党派性の回避とを目的としたものであり、ドイツの憲法裁判所の成功は世界的に注目を集めるところとなっています。 第2に、国民審査の低調さも、最高裁判所判事の任命における民主的統制の危弱さと連関していると思われます。 最高裁判所の裁判官は内閣が任命した後に、国民審査に付され、国民が信任するか否かを投票によって決することとされています。 この制度はもともと、最高裁判所判事が国民の信任の下にその地位にとどまるものであるとすることによって、司法の民主的基礎を明確にする趣旨で憲法に定められたものであります。 ところが現行の最高裁判所裁判官国民審査法では、審査の対象となる裁判官の氏名を印刷した投票用紙を用い、投票者が罷免したい裁判官の欄にX印を付すという方法が採用され、X印の投票が過半数を超える場合にのみ罷免が成立することとされています。 そのため、国民の積極的な信任を最高裁判所判事の権限行使の正統性の根拠とする見地からみると、国民の民主的統制の方策として、不十分であると言わなければなりません。 なぜならば、この方法によると国民の積極的信任がない場合であっても、白票を投ずると罷免を不可とする投票として数えられる仕組みとなっているからです。 第3に、最高裁判所が違憲審査機能を十全に果たすためには、特に多様の人材が最高裁判所判事として活躍することが必要であると思われます。憲法の国家の基本法としての性格を考えれば、最高裁判所の構成も日本国民の構成とできる限り相似していることが望ましいと考えられます。
このような観点からすれば、最高裁判所の裁判官には世代、性別、職業等の面において可能な限り多様化をすすめる必要があると思われます。現行の制度においても、裁判所法は「識見の高い、法律の素養のある年齢40年以上の者の中から」任命するとし、最高裁判所長官を除く最高裁判所判事14人のうち、少なくとも10人については一定の期間、裁判官、検察官、弁護士、大学教授等としての経験を有する者としていることを見ても、現行制度上、四十代、五十代の人物、及び女性の抜擢、並びに学者等民間の適切な人物の登用を阻む障碍はありません。
この諮問委員会は、内閣総理大臣が、優れた識見を有する者の中から両議院の同意を得て任命された委員によって構成されるものとし、合議によって最高裁判所裁判官の候補者を挙げ、内閣総理大臣に推薦するのが適切であると考えます。
これによって、不信任票が過半数に達したときは、投票者の多数が裁判官の罷免を可としたと判断し、その最高裁判所裁判官を罷免するのが憲法の趣旨から見てもより適切であると言うべきです。
そして近時の幾つかの大法廷判決では、個々の裁判官の意見が裁判官の前職の構成と同様に分布した結果を示す例があります。 下級裁判所の裁判官の給源が多様化し、少なくとも法曹一元が具体化するまでの間、内閣が最高裁判所判事を任命するにあたっては、(1)職業裁判官出身者、(2)弁護士、(3)その他法学者、行政官、外交官、検察官などの学識経験者の各グループが、それぞれ3分の1を占めるものとし、職業裁判官と検察官出身者の最高裁判所判事が、全体の過半数を占めないものとすることを提案します。 なお、高等裁判所長官は、近時は職業裁判官出身者が独占し、この中から最高裁判所判事に任命される例が少なくありませんが、制度の発足当初のように在野の法曹の中からも高等裁判所長官に適任者を選任することが望ましいと思われます。 いずれにせよ、違憲審査権という強大な権力を終審で行使する最高裁判所判事を民主的に統制することの意義は極めて重大でありますので、国民の意識の向上を図るとともに、上記のとおり制度の改革及び運用の変更を要するものと思われます。 3.最高裁判所調査官の給源に関する問題の所在最高裁判所調査官は、最高裁判所に置かれる裁判所調査官であって、裁判官の命を受けて、事件の審理及び裁判に関して必要な調査を掌ることとされており、その任免は最高裁判所が行うこととされています。最高裁判所の調査官は最高裁判所に係属する事件について最高裁判所判事が審理及び裁判に実質的に集中するためにきわめて重要な役割を担っています。 現在は、下級裁判所で経験を積んだ職業裁判官が、最高裁判所調査官に任命され、比較的長期にわたってその職務を遂行する例が少なくありません。確かに最高裁判所判事、とりわけ職業裁判官出身者ではない最高裁判所判事にとって、職業裁判官が調査官となって裁判実務を補助することは大いに有益であると考えられます。 しかし、最高裁判所判事の構成自体が多様であることの実質的な意義を考えれば、調査官についても給源の多様化を図るべきであります。 アメリカ合衆国の連邦裁判所では、裁判官が自らロークラークを採用して採用しています。その際、ロースクールを修了したばかりの者を任期を1年として採用するのが一般であり、また、最高裁判所判事のロークラークには、通常、控訴裁判所判事のロークラークを経験した者の中から採用しています。これによって、裁判官の経験とロークラークの新鮮な視点とが融合するという長所が指摘されています。 日本でも、職業裁判官でない法学者、研究者、若手弁護士を調査官に登用すれば、最高裁判所の裁判実務に多角的で新鮮な視点をもたらすことなり、最高裁判所と国民との距離を縮めるのに有益であることは疑いがありません。若手弁護士については、多年にわたり司法研修所の所付として研修所教官を助けてきた実績があり、調査官としてもこれらの弁護士の活躍を期待し得るところです。 また、最高裁判所調査官を法学者、研究者から登用すれば、目下進められている法学教育と法曹養成制度の見直し、特にロースクールにおける教育においても、大学の教授に裁判所における調査官経験を法曹教育の場面で生かす機会をもたらすことともなり、法曹教育にとっても有益であると考えられます。
(参考文献)
第2 司法における知的障害者の権利保護に関する提言1、問題の所在今日、知的障害をもつ人々に対する虐待が大きな社会問題となっており、この問題に関する案件が民事、刑事の裁判で審理される例も少なくありません。 知的障害者は、知的機能が制約されているため意思の伝達能力に障害があり、体験した事実を認識し記憶していても、それを伝達することが困難な面があります。自ら体験した事実を十分に伝達できないため、刑事及び民事の裁判手続において正当な権利救済を受けられないおそれが高いといえます。また、法廷における尋問が証人である知的障害者に重大なトラウマ(心的外傷)を与えるおそれがあり、これは司法における二次被害として知られるところです。 そこでまず、コミュニケーション障害がある人々の刑事裁判における被告人または証人としての権利を保障するための対策が必要となります。また、これらの人々が、公平な裁判を受ける権利を実質的に保障するため、民事裁判の手続においても適切な事実認定が行われるために尋問手続と証拠の評価に必要な対策が講じられるべきであります。更に、知的障害者が尋問を受ける場合には、心理的に重大な悪影響を与えないように、個々の事案で特別な尋問環境や尋問方法を工夫するだけでなく、手続法上も適切な規定を設ける必要があると考えられます。 当協会はこのような観点から、水戸市における知的障害者に対する虐待事件に関する損害賠償請求訴訟を支援してきましたが、この事件では、虐待者に対する刑事裁判の過程で検察官は知的障害者の被害を十分に理解し、訴追することができませんでした。そこで被害者は権利の救済を実現するため民事裁判を提訴し、水戸地方裁判所に係属しています。 被害者の代理人である弁護団は、この民事裁判において知的障害者の被害を主張立証する活動を通じ、上記のような困難な問題に直面し、尋問環境や尋問方法、調書の作成等についてさまざまな工夫と提言をしています。幸い、裁判所も弁護団のこうした工夫と提言に対し、真摯な姿勢で対応しているとのことでありますが、こうした問題は今後の類似事案においても共通する課題であり、社会的に少数の弱者が公平な裁判を受けるためには、司法制度上の抜本的な検討と訴訟法の改正による対応が不可欠と思われます。 当協会は、司法改革の重要な課題のひとつとして、意思の伝達能力に制約のある社会的弱者である知的障害者が裁判によって権利を実現するために、その裁判上の権利保障について、以下のとおり提案いたします。 2、具体的な提案1)知的障害者専門の警察官及び検察官の創設水戸市の知的障害者に対する虐待事件では、被害者たちは性的虐待による多数の被害について刑事告訴を行いましたが、ことごとく不起訴処分に終わったという経緯がありました。これは、警察官及び検察官が、知的障害者から被害の事実を聴取するために必要な知識と技法を有していなかったことが一つの大きな原因であると考えられます。 水戸市の虐待事件は格別、特異な事件ではなく、知的障害者は健常者より犯罪被害者となる比率が格段に高いという調査結果もありますが、一般に、知的障害者が被害者である場合には被害の通報率も起訴される率も低い、と言われています。 日本では、知的障害者が犯罪に遭う率を健常者と比較した統計は見当たりませんが、米国では、知的障害者が犯罪に遭う率は健常者の2倍であるとの調査結果があります。オーストラリアでは、知的障害者が犯罪に遭う犯罪類型ごとにみると、強盗について12.7倍、性的暴行について10.7倍との高い数字が報告されています。知的障害者が健常者に比して犯罪に遭いやすいことを示すこれらの統計に加え、通報率の低さも報告されています。米国の研究によると、軽度から中度の知的障害者に対する犯罪の40%は警察に通報されておらず、より重度の知的障害者に対する犯罪では71%が通報されていません。また全米のカウンセラーを対象に行った調査によると、知的障害者が被害に遭っても捜査当局に通告されるのは全体の3%にすぎないとの 統計もあります。 さらに、障害者に対する犯罪が通報されることがあっても、警察は事件に関与するのを渋ることがあると報告されています。その理由は、警察が障害者に対して前向きな姿勢を持っていない、または、障害者に対する経験がないことが指摘されています。 このような状況を考えると、知的障害者の被害に対応し、犯罪の摘発、適正な捜査と犯罪予防を図り、的確に加害者を訴追するために、警察及び検察の体制を整備すべきであり、積極的な制度を用意すべきであります。 国内外の研究によれば、知的障害者の記憶力は、特に虐待被害のような情動体験に基づく記憶の保持については健常者と全く変わらないと言われています。また、知的障害者の心理特性、供述特性に対する研究によれば、どのような環境においてどのような質問をすれば適切な供述が引き出されるのかも明らかにされています。 したがって、適切な環境において適切な事情聴取を実施すれば、知的障害者が記憶する事実を真実の供述として引き出すことが十分に可能であると考えられます。 警察官及び検察官は、まず知的障害者に対する先入観を払拭するとともに、このような知的障害者の記憶力、心理特性、供述特性に関する知識、及び事情聴取の技法を、身に付ける必要があります。こうした知識や技法は多分に専門的であるため、警察官及び検察官については、虐待の被害に遭う知的障害者から最初に被害を認知し、捜査にあたる司法機関として、特別の手当を講ずる必要性が高いといえます。 そこで、警察署及び検察庁に、知的障害者専門の警察官及び検察官を設置することを提案いたします。
このような知的障害者専門の警察官、検察官の配置は、現に米国イリノイ州で実際に行われており、その実効性が実証されています(添付資料参照)。
そこで、全ての司法関係者に対し、知的障害者の記憶力、供述特性、心理特性、事情聴取の技法等につき研修を受けることを義務づけるよう提案いたします。
3)専門家による聴取り制度米国では、児童に対する性的虐待事件について、被害直後に心理学・精神医学等の専門分野を修得し特別な訓練を経た専門家により事情聴取が行われるシステムがあります。これは、その事情聴取の際、録音・録画されたテープ及びビデオが、その後の民事訴訟、刑事訴訟等で証拠として用いられ、事情聴取を行った専門家が聴取りの状況等につき尋問を受けるという制度です。このシステムでは、児童に不安や緊張を与えないような和やかな雰囲気の部屋で、専門家と児童が1対1で会話をし、専門家は児童の心理状態をよく観察しながら、児童が精神的に耐えうる範囲で質問事項を選択することができます。 このような制度により、性的虐待を受けた児童は法廷における尋問により重大な心理的影響を受けずに済むだけでなく、専門家による適切な環境における適切な質問方法により児童から適切な供述を引き出すことができ、真実発見の要請をも満たすことができます。 虐待を受けた知的障害者も虐待を受けた児童と同様に尋問による重大な心理的影響を受けやすいので、この点に配慮して適切な供述を得るために、米国における児童に対する性的虐待事件における「専門家による聴取り制度」と同様の制度を創設する必要があると考えます。 もっとも、この制度を創設するにあたっては、専門家の育成・専門機関の設立等総合的見地からの政策立案が必要であり、また、反対尋問の保障をどう考えるべきかという問題もあるので、これらの点について十分に検討されるように要望いたします。 4)民事訴訟手続の整備知的障害者は、幼い頃から障害のない者以上に周囲の大人や教師、施設管理者等の指導・指示に従うことを強いられる生育環境にあったので、外的指向性が強く周囲からの影響を受けやすいという心理特性があります。認識し記憶するままの事実を証言として引き出すためには、知的障害者が話しやすい和やかな尋問環境を整備することが不可欠です。 ところが法廷は、知的障害者の尋問環境として威圧的に過ぎ、適切ではありません。そこで、知的障害者に対する虐待が争点とされる平成12年に改正された刑事訴訟法において新設された犯罪被害者保護のための諸規定と同趣旨の規定を民事訴訟法上も定めることを提案します。
(参考条文)※刑事訴訟法正157条の2「裁判所は、証人を尋問する場合において、証人の年齢、心身の状態その他の事情を考慮し、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、その不安又は緊張を緩和するのに適当であり、かつ、裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくは証人の供述を妨げ、又はその供述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を証人に付き添わせることができる。」
※刑事訴訟法157条の3
※刑事訴訟法157条の4
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