
2000.11.24
2000 年 11 月 24 日
東京都港区愛宕 1-6-7
愛宕山弁護士ビル 306号
社団法人 自由人権協会
代表理事 内田剛弘
同 金城清子
同 江橋崇
同 更田義彦
同 秋山幹男
(社)自由人権協会は、人権擁護を目的として1947年に設立した市民団体ですが、このほど、貴庁に継続中の爆発物取締罰則違反被告事件について、人権配慮の立場から、意見を述べますので、審理の参考にしていただければ幸いです。
担当弁護人らの申立によれば本件被告人らは、爆発物取締罰則違反の容疑により、4名中3名は1987年10月に逮捕され、1名は1993年3月に逮捕され、その後いずれも同容疑で起訴されました。そして現在に至るまで第一審の裁判が継続しています。その間、数度に亘る保釈請求にもかかわらず、3名については13年、1名については7年を超える極めて長期の未決勾留が継続しているとのことです。
また、被告人らは、迎賓館および横田基地にロケット弾を発射した事件に関与したとして起訴されているものですが、検察官は、被告人4名についていずれも実行行為者であるとは主張しておらず、事案の争点は被告人らが事前共謀によって上記事件に関与したか否かにあります。そして本件は、人身損害はなく物的損害も極めて軽微な事案です。
ところが、検察官は、事前共謀を直接立証する証拠がないことを当初の段階から認めておりながら、具体的な立証計画の全体像を示すことなく、現在に至るまで延々と立証を続けているとのことです。
言うまでもなく、本事件は公共に大きな危険を与えた事案に関するもので、その真相の解明とその厳正な刑事責任の追及は社会の大きな関心事です。しかしそのことによって、被告人らに対する不当に長期に亘る勾留が当然に正当化されるわけではありません。検察官が、本事件と被告人らとの結びつきに関する立証計画を明らかにしてその立証を優先すれば、7年ないし13年を経てもなお検察官の立証が継続するなどという事態には至らなかったものと思われます。
あらためて指摘するまでもなく、憲法は第32条及び第37条によって適正な裁判を受ける権利を国民に保障しているのみならず、第38条2項において「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」と定めています。これはたんに自白の証拠能力の問題だけでなく、その前提として当然に、「不当に長く抑留若しくは拘禁され」ること自体も禁じているものと解すべきものです。
そして、刑事訴訟法第91条は「勾留による拘禁が不当に長くなったときは」裁判所は保釈を許さなければならないとしています。
国際人権法の観点から見ても、市民的及び政治的権利に関する国際規約第9条第3項は、「刑事上の罪に問われて逮捕されまたは抑留されたものは、・・・妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。裁判に付されるものを抑留することが原則であってはならない。」と定めているのであって、同規約は、条約として国内法上の効力を有すると解されています。
本件は確かにその法定刑が死刑または無期若しくは7年以上の懲役または禁固という重大な事犯ですが、被告人らと事件との結びつきが争点である以上、検察官においてなぜ速やかにこの点に関する集中的な立証が行われなかったのか極めて疑問です。
弁護人がどのような公判活動を行うにしても、検察官は起訴の段階において必要な証拠を収集しているはずで、そうであれば、7年ないし13年以上の歳月を費やし、多数回におよぶ公判での立証活動を行っても、なお検察官において被告人らと事件との結びつきに関する立証のめどがつけられないというのであれば、もともと証拠が極めて希薄であったからに他ならないとも考えられます。
憲法および国際人権規約は、このような場合に、被告人らに長期の拘禁の負担を課すことを容認するものではありません。本件では、一般の目から見れば、被告人らの勾留が「不当に長くなったとき」に該当し、保釈を許すべき場合であることは明らかです。
確かに、刑訴法91条の解釈として、「不当に長くなったとき」の意味は、「単なる時間的観念ではなく、事案の性質・態様、審判の難易、被告人の健康状態その他諸般の状況から、総合的に判断されるべき相対的概念」(名古屋高決昭和34年4月30日)とされますが、そのような「相対的」判断にも自ら限界があります。すなわち、このような解釈を前提としてこれまでに「不当に長期でない」と判断された事案は、4年4月の勾留(東高決昭和49年4月10日)、1年5月の勾留(前掲名古屋高決)、2年半の勾留(東高決昭和50年8月28日)の事案であって、10年を超えるような極端に長期の勾留の事案は存しません。
結局、一般論として「不当に長くなったとき」が単なる時間的観念ではないとしても、未決勾留という拘禁の性質からすれば、許容される勾留期間には自ら一定の限度があり、その限度を超えて未決勾留が継続された場合には、そのことのみで「不当に長期」の勾留に該当すると理解されるべきであります。
以上に加え、弁護人らの説明によれば、本件被告人らには、長期の勾留によって生じた健康問題(検察官から東京拘置所に対する照会に対する同所からの回答によっても、須賀氏は腰椎第5番、仙骨第1番の椎間板ヘルニア、十亀氏は両眼結膜結石、板垣氏は前立腺肥大症、福嶋氏は前立腺肥大症)が生じており、さらには長期勾留によって著しく体力が衰えていることを併せて鑑みれば、四氏を早期に保釈する必要性も高いといわなければなりません。
よって、弁護人らから勾留の取消または保釈の請求があった場合には速やかに身柄を釈放する旨の決定をされるよう意見を述べます。