被収容者の領置物の管理規則に対する声明

1998 年 6 月 12 日


社団法人自由人権協会(代表理事山田卓生)は、1997 年 10 月に施行された「被収容者の領置物の管理に関する規則」に対し、刑事被拘禁者に対する基本的権利を制約するものであって、直ちに撤回されるべきである旨の声明を発表し、法務大臣、東京拘置所所長をはじめ関係者に送付した。


1998 年 6 月 12 日
社団法人自由人権協会
代表理事 山田卓生
同   内田剛弘
同   金城清子

被収容者の領置物の管理規則に対する声明

  1. 1997 年 4 月 23 日、法務省は「被収容者の領置物の管理に関する規則(平成 9 年法務省令第 38 号)」(以下「本件規則」という)を公布し、同年 10 月 1 日から全国の矯正施設において施行した。本件規則は、施設の長は、被収容者一人当たりの領置物の総量を規制し、領置倉庫の容量を収容人員で除したものを基準として定め、定められた保管量を超えるときは、新たな自弁購入・差入れを許さないことができる、としている(本件規則 4 条ないし 8 条)。これに伴い、東京拘置所などいくつかの拘置所の被収容者は、本件規則の施行に基づく訴訟記録の房内所持制限によって、必要な訴訟記録の施設内保管を制限されている。

    しかしながら、被収容者の領置物の総量規制による訴訟記録の房内所持制限は、合理的な理由なく刑事被拘禁者に対する基本的権利を制約するものであって、直ちに撤回されるべきである。

  2. 本件規則は、以下に述べるように、国内諸法令にも違反するものである。

    第 1 に、本件規則 4 条ないし 8 条は監獄法 51 条に違反する。同 51 条にいう領置とは、公の機関が私人の占有するものを強制的に保管することであり、これによって、在監者の物に対する支配は一時停止ないし制限される。しかし、もとより領置は物の所有権を奪うものではなく、物の処分権を制限するものでもない。このことは、私人の財産権の保障(憲法 29 条)からも極めて当然のことである。それゆえ、現行監獄法も、本件規則の根拠となり得るような領置物の制限に関する規定は設けていない。また、監獄法は、被収容者本人の意思によらない領置物の処分については、領置物が保存に適さない場合にやむを得ず廃棄することを認めるにすぎず、それ以外の場合については何らの制限規定も設けていない。そしてこのことは、刑事施設法案の作成過程において、法務省自身が認めていたことなのである。

    しかし、本件規則 4 条ないし 8 条は被収容者本人の意思によらないで領置物の総量を規制し、定められた保管量を超えるときは自弁購入・差入れも許さないものであり、監獄法 51 条に違反する。

    第 2 に、被収容者が居房内において現に使用し占有する物品は本来「領置物」とはいえないが、規則はその対象となる「領置物」に居房内で使用している物品も含む、と独自の解釈をしたうえで、在監者が居房で使用する訴訟関係書類も総量規制の対象となるとしている。

    刑事裁判の遂行上、弁護側にとって、捜査段階の記録や公判における尋問調書等を被告人自身が保有し、子細に検討することが必要であって、とりわけ事実関係に争いがある事案であれば、被告人への訴訟関係書類の差入れは不可欠である。防禦活動を尽くし真剣に争えばそれだけ公判も回数を重ね、必要な訴訟記録の量も自ずと膨大となるのは自明であり、それすらも総量規制の対象とすることは防禦活動の妨害にほかならず、憲法 32 条及び憲法 37 条 3 項によって保障された、弁護人の効果的な弁護による裁判を受ける権利を侵害するものである。

    現実に、東京拘置所などいくつかの拘置所の被収容者は、本件規則の施行に基づく訴訟記録の房内所持制限によって、必要な訴訟記録を施設内で保管することが不可能な状態に追い込まれている。訴訟記録の扱いについて本件規則上は何の歯止めもない以上、物品の適正管理の名の下に、訴訟上の防禦活動が著しく制約される危険がある。現実に東京拘置所では、公判調書などの訴訟記録についても房内所持制限(一人当たり高さ 3 メートル以内)のために高さ 3 メートルを超える分を拘置所当局によって強制的に提出され、被告人が公判において実際に支障を来たす事態が生じている。

    第 3 に、本件規則の制限内容にはまったく合理性がない。

    本件規則 4 条は、被収容者一人当たりの総量を、領置倉庫の容量を収容人員で除したものから衣類の総数を保管するための容量分を引き、保管容器の形状等を勘案して定めると規定している。しかし、これは在監期間の長短を全く考慮しない計算方法であるため、本来的に自弁購入が広く認められ、又在監期間も被収容者ごとにまちまちな拘置所において、特に、在監期間の長期の者にとっては、より深刻な事態を引き起こしている。何年も在監し、面会者がなく宅下げもできない者にとって、総量規制を超える物は廃棄するしかない。本件規則は、制定の根拠として、

    1. 領置物の管理に多大な労力を割かれる、

    2. 領置物の多少により収容者に不公平感が生じ、規律秩序に支障が生じる、

    ことを挙げているが、仮に法務省が強調するような領置物の増加による弊害があるとしても、刑事被拘禁者の基本的権利に関わるものである以上、その制約は合理的で必要最小限度に留めるべきである。在監期間の長短に拘わらず一律の総量規制を図る本件規則によって、現実には、領置物の多少によってではなく、面会者があり領置物の宅下げの頻繁にできる者とそうでない者との間で実質的な不平等が生じているのである。規則の不合理性は一見して明らかである。

  3. そもそも、刑事被拘禁者に対する処遇については、以下のような原則に従わねばならず、これらの原則は国内諸法令の解釈にあたってできるだけ参照され、それに沿った適用がなされなければならない。すなわち、

    「5、監禁という事実によって明示的に必要とされる制約を除いて、すべての被拘禁者は、世界人権宣言ならびに、関係国が当事国である場合には、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約、市民的権利及び政治的権利に関する国際規約に述べられた人権及びその他の国際連合の諸条約に述べられたその他の権利を保持する。」(国連総会決議 45/111 被拘禁者処遇原則)
    ものであり、又未決被拘禁者については

    「(2) 捜査中もしくは公判中の者の逮捕又は抑留は、法の定めた根拠、条件及び手続の下に司法権の執行のためにのみ行われるものとする。上記の者に対する制限の強制は厳密に、抑留の目的のために要求されるのか、捜査の過程への妨害を阻止するために必要であるか、司法の執行のために必要であるか、もしくは抑留施設の安全と秩序を維持するため必要ある場合以外禁止されるものとする。」(国連総会決議 43/173 被拘禁者保護原則 原則 36)
    ものでなければならない。

    また、市民的及び政治的権利に関する国際規約 14 条 3 項 b は「防禦のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること」を保障しているし、慣習法的効力をもつとされる国連被拘禁者処遇最低基準も被拘禁者の所有物の保管について以下のとおり定めている。

    「被拘禁者の所有物の保管 43

    (1) 被拘禁者に属するすべての金銭、有価物、衣類その他の物であって、施設の規則により保持することを許されないものは、施設への収容に当たり、完全に保管されなければならない。その明細書は、被拘禁者によって署名されなければならない。保管物を良好な状態におくための措置がとられなければならない。

    (2) すべてのそのような物品及び金銭は、被拘禁者の釈放に当たり、本人に返還しなければならない。ただし、金銭を消費し若しくはそのような所有物を施設外に送付することを許されていた場合は、この限りでない。被拘禁者は、返還された物品及び金銭について、領収書に署名しなければならない。

    (3) 被拘禁者のために外部から受け取った金銭又は物品は、同一の方法で、取り扱われなければならない。」
    しかしながら、本件規則は「監禁という事実によって明示的に必要とされる制約」とは必ずしも言えないばかりではなく、厳密に「抑留の目的のために要求される」ものでも、「捜査の過程への妨害を阻止するため必要である」ものでも、「司法の執行のために必要である」ものでも、「抑留施設の安全と秩序を維持するため必要」であるものでもない。訴訟記録の房内所持制限は、「防禦のために十分な時間及び便益を与えられ」る被拘禁者の権利を侵害していることは明らかである。本件規則 4 条ないし 8 条は、これらの国際的準則にことごとく違反している。

  4. 以上の理由により、本件規則は速やかに改正され、訴訟記録の房内所持制限は直ちに撤回されるべきである。


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