感染症対策新法に対する意見書

1998 年 4 月 28 日


参議院議長殿
各政党会派代表殿

1998 年 4 月 28 日
社団法人自由人権協会
代表理事 山田卓生
同   内田剛弘
同   金城清子

感染症対策新法に対する意見書

  1. 意見

    現在政府は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」案(以下、法案という)を国会に提出している。しかしながら、右法案については、国民各層から、多くの根本的な問題点が指摘されているところである(後記 II)。とりわけ、法案作成過程で諮問を受けた公衆衛生審議会の答申内容(同審議会内基本問題検討小委員会 1997 年 12 月 8 日付「新しい時代の感染症対策について」と題する報告書。以下、報告書という)を、法案が無視し、その内容に明らかに反するという趣旨の上申書が、当該小委員会の委員(3 名)から出されているという事態はきわめて異例である。

    当協会は、いわゆるエイズ予防法の制定過程において、同法案の問題点を指摘して立法に反対し、また「エイズと人権小委員会」での検討を経て、あるべき疾病対策立法について提言をした経緯がある。 

    よって、先にのべたような状況の下で、II に述べるとおり現在指摘されている多くの根本的問題について十分な検討をしないまま、法案を法律とすることには反対である。国会は、これらの諸問題について真摯な議論を深め、報告書に沿った新法の制定をなすべきであり、法案については慎重な審議を求めるものである。

  2. 指摘されている問題点

    1. 基礎理念及び手続的保障上の問題点

      1. 新法は、過去の反省、すなわち過去において感染症患者に激しい差別が加えられたという事実および従来の感染症対策立法が感染患者に対するこのような差別を助長してきたという事実について、深い反省に基づいたものでなければならない。しかし、法案にはそのような反省に触れた部分はない。

      2. このような反省に基づくならば、新しい時代の感染症対策は、感染症患者に対する十分な情報の提供および説明と、患者・感染者の同意に基づいた医療の提供が中心的機能を果たすものであることを、法律に明記すべきである。しかし、法案には、このような内容は存在しない。

      3. そして、患者に対する行動制限は、あくまで例外的なものとして位置づけられるものであり、仮に例外的に認められる場合でも、人権尊重の観点から、体系的な手続的保障が設けられなければならない。しかし、法案の手続保障は不十分であり、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、自由権規約という)9 条 4 項の趣旨にも反するものである。

    2. 具体的に指摘されている主な問題点

      1. 新感染症(法案 5 条 6 項)の概念が不明確・広範であり、それに該当するか否かを誰が判断するのかも不明確である。

      2. 不当入院措置防止のための情報開示規定が欠けている。また、不当入院措置の場合の補償制度を保障するための特別の規定が欠けている(自由権規約 9 条 5 項違反)。

      3. 指定感染症(法案 6 条 6 項)の認定、規制範囲の決定が包括的に政令に委ねられており、きわめて重大な問題である。指定感染症は、公衆衛生審議会内基本問題検討小委員会等ではまったく議論されていない制度であるにもかかわらず、法案作成段階で唐突に挿入されている。

      4. HIV 感染者にとっては、エイズ予防法よりも、規制が強化される結果となる(医師による届け出の義務付け(法案 12 条)、指定感染症への指定の可能性(法案 6 条 6 項。指定されれば強制的検診、就業制限、指定入院等が可能になる)、都道府県の調査権の対象とされる(法案 15 条)         

      5. 行動制限についての手続的保障およびその他として、次の問題点がある。

        1. 「感染症の重篤性、感染力等による類型に応じた必要最小限で均衡のとれた行動
          制限」(報告書 22 頁)という原則規定が欠如してる。

        2. 健康診断等における説明義務の規定が欠落している。

        3. 交通制限の規定が、基準を政令に委ねたまま存在している(法案 33 条)

        4. 質問権(法案 15 条、35 条等)の主体、範囲が不明確である。

        5. 医師の届出義務(法案 12 条以下)の届出事項が、厚生省令で定められるものとされているが、具体的な届出事項が明らかではない。プライバシー尊重の観点に至って、届出事項は、法律で定めるべきである。

      6. 自由権規約上の問題点等として、すでに言及したもののほか、

        1. 強制入院の要件として客観的専門意見が必要とされていない点は、同規約 9 条 1 項との関係で問題である。

        2. 行動制限については、精神障害者の強制入院に関する国連総会決議「精神病者の保護及び精神保健ケアの改善のための原則」原則 13 が参照されるべきであり、行動制限は同原則(一般的制限条項の限度)を遵守すべきである。


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