行政機関等の保有する個人情報の保護に関する法律(自由人権協会案)


2000年6月
社団法人 自由人権協会

はじめに

 自由人権協会は、1999年10月18日、高度情報通信社会推進本部個人情報保護検討部会に対し、「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」の抜本的改正を求める意見書を提出し、現行法は、国の個人情報保護制度としては極めて不充分であるため、早急に抜本的な改正を行い、個人情報の保護の徹底をはかるべきことを求めました。
 同年11月に個人情報保護検討部会がまとめた「我が国の個人情報保護のあり方について(中間報告)」においては、現行の個人情報保護法の改正が提案されましたが、その後、個人情報保護検討部会は開催されてはおらず、また、中間報告を受けて設置された個人情報保護法制化専門委員会においても、現行の個人情報保護法の改正は何ら具体的には検討されていません。
 当協会は、既に、1988年に個人情報保護法モデル案を提言していますが、このモデル案や地方公共団体の個人情報保護条例及び1999年5月に制定された情報公開法を参考として、「行政機関等の保有する個人情報保護に関する法律」(自由人権協会案)をここに公表します。
 この法案を参考として個人情報保護法の抜本的改正がすみやかに国会で審議検討されることを求めるものです。
以下に、自由人権協会案の主な内容を述べます。

  1. 目的(第一条)
     現行法(行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律)では、憲法との関係性が明確にされていないが、自由人権協会案では個人の尊厳という憲法上の人権を保障する上できわめて重要であるという認識に立つことを示している。

  2. 定義(第二条)
     自由人権協会案では、現在政府で検討中の、特殊法人等情報公開法の対象機関は、政府が一部を構成すると考えられていることから、本法の対象機関とすることにした(第二号)。
     現行法では、対象文書が電子計算機処理に係る個人情報に限定されているのに対して、自由人権協会案では、組織的に用いられている文書を対象となる公文書として、さらに電磁的記録を公文書に含めることにより、対象文書の範囲を情報公開法に合わせる形で拡大している。

  3. 取扱いの制限(第四条)
     「一 思想、信条及び宗教、二 人種、門地、身体・精神障害、犯罪歴、病歴、その他社会的差別の原因となる事実、三 勤労者の団結権及び団体交渉その他の団体行動権の行使、四 集団示威行為への参加及び請願権の行使その他の政治的権利の行使」に関する個人情報は、現行法では明確な規定を持たないが、基本的人権を侵害する危険性が高いものであるので、自由人権協会案では、これらの個人情報については、原則としてその取扱いを禁止する。

  4. 収集の制限(第六条)
     必要な限度を超えた個人情報の収集を行わないこと(第1項)、法令等や法秩序の一般理念に基づく形で個人情報の収集が行われなければならないこと(第2項)、さらに原則として本人から情報が収集されなければならないことを定めている。

  5. 利用及び提供の制限(第七条)
     個人情報を目的外に利用、提供することを禁止する原則を示したものである。また、現行法と異なり、適用除外事項の中でも、法律や個人の同意に基づかない「個人の生命、身体又は財産の安全を守るため緊急かつやむを得ない必要があると認めるとき、審議会の意見を聴いた上で必要があると認めるとき。」の利用、提供に関しては、原則として行政機関がその旨及び目的を本人に通知しなければならないことを定めている。

  6. オンライン結合による提供(第八条)
     自由人権協会案では、オンライン結合に関しては、「法令上の規定に基づく場合、もしくは公益上の必要があり、かつ、個人の権利利益を侵害するおそれがないと認められる」ときに提供を限定しており、また、新たに開始しようとするときやその内容を変更しようとするときは、あらかじめ、審議会の意見を聴かなければならないものとしている。

  7. 自己情報の開示請求権(第十三条)
     本条では、自己情報の開示を請求する権利を保障するものである。現行法では、自己を処理情報の本人とする処理情報(個人情報ファイル簿に掲載されていない個人情報ファイルに記録されているもの及び第七条第二項の規定に基づき個人情報ファイル簿に記載しないこととされたファイル記録項目を除く。)に限定するが、自由人権協会案では、行政機関が保有するすべての個人情報を対象とする(第一項)。
     請求者の範囲は、「何人も」であり、日本国民に限らず、外国人を含むすべての自然人を対象としている(第一項)。
     不開示事由は、個人情報の全部又は一部を開示できない場合を限定的に定めたものであ
    る(第三項)。以下に不開示事由を引用して解説する。

    (第十三条第三項第一号)
    開示の請求の対象となった個人情報に開示の請求をした者(以下「請求者」という。)以外の個人に関する個人情報が含まれる場合であって、請求者に開示をすることにより、当該個人の正当な利益を侵すことになると認められるとき。

     本号は、請求された個人情報に請求者以外の情報が含まれ、開示することにより、当該個人の名誉、社会的地位、プライバシー等の正当な利益を侵す場合、不開示とできることを定めている。

    (第十三条第三項第二号)
     開示の請求の対象となった個人情報に法人等に関して記録された情報又は個人が営む事業に関して記録された情報が含まれる場合であって、請求者に開示をすること により、当該法人等又は当該個人が有する競争上の正当な利益を著しく侵すことにな ると認められるとき。

     本号は、請求された個人情報に事業に関して記録された情報が含まれ、開示することにより、著しく当該法人等又は個人の競争上の正当な利益を侵す場合、不開示とできることを定めている。

    (第十三条第三項第三号)
     開示の請求の対象となった個人情報が個人の指導、診断、評価、選考等に関する情報であって、請求者に開示をすることにより、当該指導、診断、評価、選考等に著しい支障が生ずるおそれがあるとき。

     本号は、請求された個人情報に個人の指導、診断、評価、選考等に関して記録された情報が含まれ、著しく当該指導、診断、評価、選考等に支障を生ずる場合、不開示とできることを定めている。

    (第十三条第三項第四号)
     開示の請求の対象となった個人情報が行政機関の機関内部、国の機関相互、若しくは地方公共団体との間における審議、検討、又は協議に関するものであって、請求者に開示をすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるとき。

     本号は、請求された個人情報に行政機関の機関内部、国の機関相互、若しくは地方公共団体との間における審議、検討、又は協議に関して記録された情報が含まれ、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれたり、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼす場合、不開示とすることができる。ただし、事実に関するもの、意見に関するもののうち、事実に関するものとして調査等が考えられるが、事実に関しては原則として公開すべきである。

    (第十三条第三項第五号)
     開示の請求の対象となった個人情報が国又は地方公共団体の機関が行う取締り、調査、交渉、争訟その他の事務又は事業に関するものであって、請求者に開示をすることにより、当該事務又は事業の目的を失わせ、又は適正な実施を著しく困難にするおそれがあるとき。

     本号は、請求された個人情報に国若しくは地方公共団体の機関が行う取締り、調査、交渉、争訟その他の事務又は事業にに関して記録された情報が含まれ、著しく当該事務又は事業の目的を失わせ、又は適正な実施をに支障を生ずる場合、不開示とできることを定めている。

    (第十三条第三項第六号)
    開示の請求の対象となった個人情報を開示することにより、犯罪の予防・捜査、公訴の維持、刑の執行、警備その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとき。

     本号は、請求された個人情報の開示が、犯罪の予防・捜査、公訴の維持、刑の執行、警備その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすと合理的に認められる場合、非開示とできることを定めている。

    (第十三条第三項第七号)
     開示の請求の対象となった個人情報を開示することにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるとき。

     本号は、請求された個人情報の開示により、安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがある場合、非開示とできることを定めている。

     請求された個人情報に不開示とする情報とそれ以外の情報が記録されている場合、両者を容易に分離でき、かつ分離することによっても請求の趣旨が損なわれないときは、非開示部分を除いて開示するものとする(第四項)。

     なお、以下に述べる8.公益上の必要による開示(第十四条)、9.費用負担(減免規定)(第十九条)、11.個人情報保護審査会(第二十三条)は、現行法にない規定である。

  8. 公益上の必要による開示(第十四条)
     人の生命、身体、健康又は生活の保護のため公益上必要があるときは、個人情報の開示を義務づける旨を定めている。

  9. 費用負担(第十九条)
     経済的困難だけでなく、公益上の理由その他特別の理由があると認めるときは、手数料を減額、免除することができる。

  10. 自己情報の訂正請求権(第二十条)
     本条では、自己情報の開示を訂正・削除する権利を保障するものである。
     請求者の範囲は、「何人も」であり、日本国民に限らず、外国人を含むすべての自然人を対象としている。

  11. 個人情報保護審査会(第二十三条)
     開示の請求に対する決定等(第十六条)、訂正の請求に対する決定等(第二十二条)に不服があるものは、行政不服審査法に基づき、個人情報保護審査会(以下、審査会という。)に不服申立てをすることができるものと規定している。これは、情報公開法における不服審査会に対応するものである。
     審査会の権能としては、インカメラ審査(第二項)、ヴォーンインデックス(第三項)を求めることができる。

  12. 是正の請求(第二十五条)
     何人も、実施機関が行う自己を本人とする個人情報の取扱いが不適正であると認めるときは、当該実施機関に対して、その是正を申し出ることができる。
  13. 個人情報保護審議会(第二十八条)
     この法律の運用に関する事項について調査審議し、行政機関に対し、個人情報保護制度の在り方について建議することができる個人情報保護審議会を設置する。

    ができる個人情報保護審議会を設置する。