新陪審法案(第1次案)


1989年9月15日

第1章 総則

(趣旨)
第1条 裁判所は、刑事事件について、陪審の評議に付して事実の認定を行う場合には、この法律による。

2 この法律に定めていない事項については、刑事訴訟法による。
(法定陪審事件)
第2条 死刑又は無期若しくは短期1年以上の有期懲役若しくは禁錮にあたる事件については、陪審の評議に付する。
<解説>
 陪審による裁判をどの範囲の事件に認めるかについては、さまざまな考え方があり、大いに議論の分かれるところであるが、新法を作成するにあたっては、次のような見地からこの問題を検討した。
 すなわち、第1に、陪審裁判を復活させる最大の目的の一つは、国民による司法の民主的コントロールを徹底させる、ということである。そして、この目的に最も相応しく、かつ必要なものとして、対権力犯罪に対する国民のチェック機能を果たさせたい、ということである。第2に、民主的な国家においては、国家法益と関連する犯罪であればあるほど、右と同様の趣旨から、陪審による事実認定がなされるべきである。また、第3には、陪審による事実認定という方法自体が職業裁判官によるそれよりも、いくつかの点で、冤罪を防止することにおいて優れているという指摘がある以上、きわめて軽微な法定刑の事件は別として、陪審による事実認定を求める機会を被告人に広範に保証することが望ましいと考えられる点である。
 このような観点からは、第1に法定陪審事件につき、「短期1年以上の有期懲役又はの刑にあたる事件」にまでその枠を広げた。第2に、旧法において定められていた陪審不適事件の規定を全面的に削除した。これは、国家秩序に触れるもの、すなわち、当時規定されていた皇室に対する罪、内乱・外患罪、国交に対する罪、騒擾罪、軍機保護法、陵・海軍刑法に規定する罪、そして選挙犯罪などを陪審の対象事件から除外していたものである。現在では廃止された犯罪も多いが、存続しているものについても、すでに述べた観点からはむしろ陪審の対象婁件にする必要性の最も強いものだからである。
(請求陪審事件)
第3条 前条に規定する事件以外の事件について、被告人が請求したときは、これを陪審の評議に付する。ただし、罰金以下にあたる事件については、この限りではない。
<解説>
 第2条は法定陪審事件の要件を定めたが、この要件を満たさない事件でも、被告人が請求した場合には、原則として陪審審理を認めることとした。例外として、法定刑が罰金のみである場合には、請求陪審の対象からはずした。懲役・禁錮と併せて選択刑として罰金が定められている罪は、請求陪審の対象に含まれる。従って、これらの罪が簡易裁判所に公訴提起されたときでも、陪審請求があったときは、陪審に付議される。この場合、事件を地方裁判所へ移送する制度にしたほうがよいであろう。この観点から、裁判所法第33条第3項の改正を要する。なお、高等裁判所.の専属管轄に属する事件(例えば、内乱罪や独占禁止法第85条第3号の事件)は高等裁判所で陪審により審理される。
(請求期間)
第4条 前条の請求は、第1回公判前にこれをしなければならない。ただし、この期日前でも最初に定めた公判期日の召喚を受けた日より、10日を経過したときは、これをなすことはできない。
(陪審の辞退・請求の取下)
第5条 被告人は、公判期日において事件について陳述する前は、いつでも陪審を辞退し、又はその請求を取下げることができる。

2 前項の場合においては、事件を陪審の評議に付することはできない。

<解説>
 陪審裁判は、さまざまなメリットがあるとしても、強制されることは現在の国民感情には合致しないと思われる。旧法下においては、陪審の辞退や請求の取下げの制度の存在が、陪審裁判で有罪となった被皆人に陪審員に関連する費用負担を義務付けていた(旧法第107条参照)こと及び上訴が制限されていたことと相候って、陪審裁判がさほど行われない原因になった、といわれる。しかし、これらについては、上訴を可能にし、また費用面での別の制度的手当をすれば、旧法下のような状況は避けられるのではないか。そこで、辞退、請求の取下げの制度はこれを存続させることにした。
(請求の制限)
第6条 被告人が、公判又は公判準備における手続に際し、起訴状に記載された訴因のすべてについて有罪である旨を陳述したときは、事件を陪審の評議に付することができない。ただし、共同被告人中において、訴因について有罪である旨を陳述しない者のあるときは、この限りではない。
<解説>
刑事訴訟法第291条の2を参考にした。
(管轄移転の請求)
第7条 犯罪の性質、地方の民心その他の事情により陪審の評議が公平を失するおそれがあるときは、被告人は、直近上級の裁判所に管轄移転の請求をすることができる。

2 公判に係属する事件について前項の請求がされたときには、訴訟手続を停止しなければならない。

<解説>
刑事訴訟法第17条、第18条を参考にした。旧法では、検察官のみに管轄移転の請求権を付与したが、被告人の公平な裁判を受ける権利を尊重する立場からは、逆に、被告人に管轄移転の請求権を認めるべきである。高等裁判所管轄の事件については、最高裁判所に管轄移転の請求をすることになる。
(管轄移転請求の手続)
第8条 前条第1項の請求をするには、理由を付けた請求書を管轄裁判所に提出しなければならない。

2 裁判所は、移転の決定又は移転の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。

(管轄移転請求と陪審放棄)
第9条 被告人が陪審を辞退し又はその請求を取下げたときは、管轄移転の請求はその効力を失う。

2 共同被告人中において陪審の辞退をした者があるときは、その被告人に関する管轄移転の請求について前項と同様とする。

(上訴審と陪審)
第10条 上訴裁判所においては、事件を陪審の評議に付することはできない。

第2章 陪審員及び陪審の構成

<解説>
 旧法は、陪審員の資格について国籍、性別、年齢、住居関係、納税の多寡、読み書き能力により、制限を設けていた。しかしながら、これらのうち、合理性を有するのは年齢(子供にはその職責を果たせまい)、読み書き能力であり、見解の分かれるところが「近隣の同胞による裁判」という意味での住居制限及び国籍であろう。その他の制限はおよそ根拠がないというべきである。
 そこで、新法では、特に積極的な資格規定を設けず、原則的には検察審査会法の規定を類推して、欠格事由などを設けることに止めた。そして、陪審員候補者の選定方法も、同法を類推することにした。この方法によれば、国籍については格別として、その他の年齢、住居、読み書き能力について、妥当な緒論が得られることになると思われる。国籍による制限については、なお、検討を要しよう( 第18条の解説を参照)。
(欠格事由)
第11条 次に掲げる者は、陪審員となることができない。
<解説>
 検察審査会法第5条を一部参考にした。第3号は全部削除して、忌避制度にゆだねる考え方も充分ありえよう。
(同前)
第12条 次に掲げる者は、陪審員の職務につくことができない。
<解説>
検察審査会法第6条を参考にし、検察審査員を加えた。 ただし、不適格者範囲について、全般を見直すべきである。
(除斥)
第13条 陪審員は、次の場合には、職務の執行から除斥される。
<解説>
旧法の規定に検察審査員を追加した。
(職務の辞退)
第14条 次に掲げる者は、陪審員の職務を辞することができる。
<解説>
検察審査会法第8条を参考にした。ただし、第1号の年齢が、60才が妥当であるか、あるいは第3号に医師など医療関係者を追加すべきか、その他なお検討の要がある。
(予定数の割当て)
第15条 地方裁判所長は、陪審員候補者名簿を調製する年の9月1日までにその翌年から4年間必要とされる陪審員の員数を定め、当該裁判所管轄区域内の市町村に割り当て、これを市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
(候補者名簿の調製)
第16条 市町村の選挙管理委員会は、前条の通知を受けたときは、衆議院議員の選挙に用いられる当該市町村の選挙人名簿に登録された者の中から、同条の規定により割り当てられた員数の2倍の員数の陪審員予定者をくじで選定し、各予定者について陪審員としての資格を調査した後、その資格を有する候補者の中から同条の規定により割り当てられた員数の候補者をくじで選定しなければならない。

2 前項の調査の結果、その資格を有する予定者が割り当てられた陪審員候補者の員数に足りないときは、その足りない員数についてこれを充足させるまで前項の規定を準用する。

3 市町村の選挙管理委員会は、第1項の規定によりくじを行う日から少なくとも3日前までに、くじを行うべき場所及び日時を公示しなければならない。

4 第1項の規定によりくじを行うときは、衆議院議員の選挙権を有する者3人以上が立ち会わなければならない。

5 市町村の選挙管理委員会は、第1項又は第2項の規定により選定された陪審員候補者について、その氏名、住所及び生年月日を記載した陪審員候補者名簿を調製しなければならない。

(名簿の送付・通知・告示)
第17条 市町村の選挙管理委員会は、第15条の通知を受けた年の11月30日までに陪審員候補者名簿を管轄地方裁判所長に送付しなければならない。

2 市町村の選挙管理委員会は、陪審員候補者名簿に登載された者にその旨を通知し、かつ、その氏名を告示しなければならない。

(候補者の欠落)
第18条 市町村の選挙管理委員会は、前条の規定により陪審員候補者名簿を送付した後、その候補者中死亡した者あるとき又は第13条若しくは第14条の各号の1に該当するに至った者のあるときは、遅滞なくこれを管轄地方裁判所長に通知しなければならない。
<解説>
旧法では、陪審員の要件として日本国籍を要求していたが、新法ではこれをはずした。従って、本条も「国籍を喪失した者」の記載を抹消した。ただし、主として技術的要請から、陪審員候補者名簿の作成資料として衆議院議員選挙人名簿を利用することとした結果、国籍の要件は事実上生きている。この点は、検討の必要がある。
(高等裁判所の名簿利用)
第19条 高等裁判所長官は、陪審員の評議に付する事件があるときは、予め定めた方法により管轄内の地方裁判所長が保管する陪審員候補者名簿を利用することができる。
<解説>
高等裁判所を第一審とする陪審事件のため、規定を新設した。
(陪審員候補者の選定)
第20条 陪審員の評議に付する事件について公判期日が定まったときは、管轄裁判所の長は予め定めた順序により各陪審員候補者名簿から1人又は数人の陪審員候補者を抽選し、陪審員候補者36人を選定しなければならない。

2 前項の抽選は、裁判所書記官の立合いのもとに行う。

<解説>
旧法では、名簿から抽選で選定された36人を「陪審員」と呼称していたが、陪審を構成する最終者を「陪審員」と呼び、未だ構成手続きを経ておらず、弁護人等の承認を受けていない者は「陪審員候補者」と呼称する。
(再選の制限)
第21条 陪審員候補者として呼出に応じた者は、その市長村における陪審員候補者名簿に登載された者が4分の3以上呼出に応じた後でなければ、その陪審員候補者名簿調製の年の翌年から4年間は再び陪審員候補者に選定されない。
(陪審の構成)
第22条 陪審は、12人の陪審員をもってこれを構成する。
(陪審構成の不変更)
第23条 陪審は、検察官が起訴状朗読を行うときから裁判所書記官が陪審の答申を朗読するまで、同一の陪審員をもって構成しなければならない。
<解説>
陪審の権威を高めるため、裁判長が陪審の答申を朗読する、等の考え方もある。検討を要しよう。
(補充陪審員)
第24条 裁判長は、事件の開廷が2日以上にわたることが見込まれるときは、12人の陪審員のほかに1人又は数人の補充陪審員を公判に立ち会わせることができる。

2 補充陪審員は、陪審を構成すべき陪審員が病気その他の事由により職務を行うことができないときは、これに代わって審理及び評議に加わる。

3 補充陪審員が数人いる場合においては、前項の職務を行うのは第55条の規定による抽選の順序とする。

(数個の事件)
第25条 同日に数個の事件の公判を開くときには、数個の事件について同一の陪審員をもって陪審を構成することができる。この場合においては、最初の事件の証拠調手続の前にその手続をしなければならない。
(他の事件)
第26条 検察官及び被告人に異議がないときには、1つの事件のため構成された陪審をして同日に審理する他の事件のためにその職務を行わせることができる。
(旅費などの支給)
第27条 陪審員及び陪審員候補者には、最高裁判所規則に定めるところにより旅費、日当及び宿泊料を支払う。

第3章 陪審手続

第1節 公判準備

(準備期日の指定)
第28条 陪審の評議に付すべき事件については、裁判長は、公判準備期日を定めなければならない。
(弁護人)
第29条 被告人が公判準備期日前に弁護人を選任しないときは、裁判長は、被告人のため弁護人を選任しなければならない。
(召喚・通知)
第30条 公判準備期日には、被告人を召喚しなければならない。

2 公判準備期日は、これを検察官、弁護人及び補佐人に通知しなければならない。

(猶予期間)
第31条 召喚状の送達の日と公判準備期日との間には、少なくとも7日の猶予期間を置かなければならない。
(公判期日と公判準備期日)
第32条 法定陪審事件以外の事件について公判期日を定めた後に、被告人の請求により事件を陪審の評議に付することとなったときには、その公判期日を公判準備期日とする。
(関係者の出席)
第33条 公判準備期日における手続は、検察官、被告人及び弁護人を出席させて行わなければならない。
(辞退可能の告知)
第34条 事件を陪審の評議に付するときは、裁判長は、被告人に対し、陪審の辞退をできることを告げなければならない。
<解説>
 旧法では、陪審の審理によると被皆人が負担する不利益(例えば、審級の利益がないなど)が存在したため必要な規定であったが、同時に、陪審の辞退を被皆人に事実上勧奨するおそれもあった。従って、新法では、この条文を削除してもよいが、被告人の翻意による陪審手続きの無駄を避けるため、裁判長が被告人の意見を念のため確認する意味はあるので、一応存続させた。ただし、なお、検討を要する。
(冒頭手続)
第35条 公判準備期日における冒頭の手続は、刑事訴訟法第291条を準用する。
<解説>
 公判準備期日が陪審手続の上で重要な位置を占めていることに鑑み、規定した。公判期日における刑事訴訟法第291条の適用を排除するものではない。
(証拠の準備)
第36条 裁判所は、前条の手続の後、検察官、被告人及び弁護人の意見竜聴き、証拠調の範囲、順序及び方法を決定する。

2 刑事訴訟法第298条の規定は、前項の規定に際し、これを準用する。

3 第1項の規定は、公判期日における刑事訴訟法第297条及び第298条に基づく手続を妨げるものではない。

<解説>
 旧法では、一件記録を裁判所、弁護人等が全部閲覧・検討できたため、証拠調の見通しが立て易く、効率的な訴訟運営が可能であった。現在は、起訴状一本主義のため、裁判所が捜査記録を閲覧できず、効率的な訴訟運営をするためには、検察官・弁護人双方の裁判に対する協力が必要である。ところが、検察官が手持捜査記録の全面開示をする義務がなく、また未開示の証拠中には、応々にして被告人に有利なものが包含されている可能性があるため、証拠調べの進行に関して検察官・弁護人の間の対立が生じて、訴訟運営の効率を阻害している。陪審員の負担を考慮すると、現行の訴訟運営以上にその効率化が図られねばならないが、被告人の防御権を全うしつつ訴訟運営の効率化を図るには、証拠の全面開示制度を実現することが必要である。証拠の全面開示制度をどのように条文化するか、検討を要する。
(準備調書の作成)
第37条 裁判所書記官は、公判準備期日の手続及びその内容を記載した調書を作成しなければならない。
(調書の整理・押印)
第38条 公判準備調書は3日以内にこれを調整し、裁判所書記官が署名押印し、裁判長が認印しなければならない。

2 裁判長は、認印前に公判準備調書を閲読し、意見があるときはその旨を記載しなければならない。

<解説>
 刑事訴訟規則第194条の5を参考にした。
(期日前の証拠請求)
第39条 検察官、被告人及び弁護人は、公判準備期日の前に証拠調を請求することができる。
<解説>
 現在の証拠開示制度を前提にすると、証拠調べの請求時期に制限を設けることは賢明ではない。
(期日外の証拠決定の通知)
第40条 裁判所が公判準備期日外において証拠決定をしたときは、これを検察官、被告人及び弁護人に通知しなければならない。
(通常手続による審判)
第41条 公判準備中に陪審の評議に付すべきでない事由が生じたときは、通常の手続にしたがって手続を行う。

2 公判準備期日において前項の事由が生じたときは、その期日を公判期日とする。ただし、訴訟関係人中に出頭しない者があるときにはこの限りではない。

(管轄違の申立)
第42条 被告人は、公判準備期日に管轄違の申立をすることができる。
(公訴棄却・管轄違)
第43条 裁判所が公判準備期日に公訴棄却又は管轄違の事由があることを認めたときは、決定をしなければならない。
(免訴)
第44条 裁判所が公判準備期日に免訴の事由があることを認めたときは、決定をしなければならない。
(決定の手続、抗告)
第45条 前2条の決定を行うには、訴訟関係人の意見を聴かなければならない。

2 前2条の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

<解説>
 高等裁判所の決定に対しては、刑事訴訟法第428条により、その高等裁判所に異議の申立をすることになる。
(手続の効力維持)
第46条 第41条又は第43条の場合において、公判準備中に行った手続はその効力を失わない。
(陪審員の呼出し)
第47条 公判期日には、第20条の規定により選定した陪審員候補者を呼び出さなければならない。

2 第31条の規定は、前項の場合にこれを準用する。

(呼出状)
第48条 陪審員候補者に対する呼出状には、出頭すべき日時、場所及び呼出しに応じないときは過料に処することがあることを記載しなければならない。
(辞職)
第49条 陪審員候補者が病気その他やむを得ない事由により呼出しに応じられないときには、書面をもってその事由を疎明しなければならない。

第2節 公判手続及び公判の裁判

(陪審構成手続)
第50条 陪審員構成手続は、裁判官、検察官、裁判所書記官、被告人、弁護人及び陪審員候補者が出席し、公判廷においてこれを行う。
(出席定足数)
第51条 前条の手続は、陪審員候補者が24人以上出席しないときは、これを行うことができない。

2 出席した陪審員候補者が24人に達しないときは、裁判長はこれを補充するために、その付近の市町村の陪審員候補者名簿からくじで必要な員数の陪審員候補者を選定して、適宜の方法によってこれを呼び出さなければならない。

3 前項のくじは、裁判所書記官の立ち会いのもとに行う。

(除斥)
第52条 陪審員候補者が24人以上出席したときは、裁判長はその氏名、職業及び住居地を記載した書面を示して、検察官及び被告人に対し、陪審員候補者の中に除斥すべき者がいるかどうかにっき意見を聴かなければならない。

2 裁判長は、陪審員候補者に対し、被告人の氏名、職業及び住所を告げ、除斥の理由があるかないかを問わなければならない。

3 検察官、被告人及び陪審員候補者は、除斥の理由があるときには、その旨を申し出なければならない。

4 除斥の理由があるときには、裁判所は除斥の決定をしなければならない。

(欠格)
第53条 出席した陪審員候補者中に第11条及び第12条の規定によって陪審の資格を有しない者があるときには、裁判所は決定しなければならない。
(専断的忌避)
第54条 検察官及び被告人は、陪審を構成すべき陪審員及び補充陪審員の員数を超過する員数について、それぞれの半数を忌避することができる。忌避することができる員数が奇数であるときは、被告人はなお一人を忌避することができる。

2 被告人数人あるときは、忌避は共同してこれを行う。共同の方法について協議が整わない場合は、忌避を行う方法は裁判長がこれを定める。

<解説>
被告人数人の時には、被告人側で忌避できる人数を増やすことも考えられる。
(忌避手続)
第55条 裁判長は、陪審員候補者の氏名票を抽選箱に入れた後、検察官及び被告人が忌避することのできる員数を告げなければならない。

2 裁判官は、氏名票を1票宛抽選箱から抽選し、これを読み上げなければならない。

3 裁判官が氏名を読み上げたときは、検察官及び被告人は、承認するか又は忌避するかを陳述しなければならない。その順序は、検察官を先にして被告人を役とする。

4 忌避の理由は陳述してはならない。

5 次の氏名票を抽選箱より抽出するまでに陳述をしないときは、承認を陳述したものとみなす。裁判長が抽選を終了した旨を宣言するまでに陳述をしないときも同様とする。

6 陳述は、次の氏名票を抽出した後は、取り消すことができない。裁判長が抽選が終了した旨を宣言したときも同様とする。
<解説>
検察官及び弁護人が、忌避の申し立てをする前に陪審員候補者に、適宜、質問ができるようにすべきか、第3項の承認順序を旧法のままでよいか、など検討を要する。
(抽選の終了)
第56条 前条の手続により陪審を構成する陪審員及び補充陪審員の数を満たしたときは、裁判長は、抽選の終了した旨を宣言する。
(陪審員と補充陪審員)
第57条 陪審を構成すべき陪審員は、はじめに承認した12人をこれにあて、補充陪審員はその他の承認者をあてる。
(着席順序)
第58条 陪審員は、第55条の規定により行った抽選の順序に従い着席する。
(宣誓)
第59条 裁判長は、検察官の起訴状朗読前に、陪審員に対し、陪審員の心得を告げ、宣誓させなければならない。

2 宣誓は、宣誓書によってこれを行う。

3 宣誓書には、良心に従って、公平誠実にその職務を行うことを誓う旨を記載しなければならない。

4 陪審員は、起立して宣誓書を朗読したうえ、これに署名押印をしなければならない。
(陪審員の審理)
第60条 陪審員は、裁判長の許可を受けて、証人、鑑定人、通訳及び翻訳人を尋問することができる。
(伝聞証拠禁止の原則)
第61条 刑事訴訟法第321条ないし第328条(ただし、第321条第1項第2号本文後段及び第322条第1項を除く)に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
<解説>
 陪審審理において証拠となしうるものをどのように定めるかは重要な問題である。旧法では、第71条で「直接審理主義」を規定しながら、第72条ないし第75条で広範な例外を認めていた。この例外規定をそのまま残置したのでは、直接主義・口頭主義の形骸化、捜査段階の調書の偏重(調書裁判)という、現在の刑事裁判に対する批判がそのままあてはまることにもなりかねない。さらに、現行刑事訴訟法における伝聞法則の例外が、仮に職業裁判官の審理については相当性が認められるとしても、このことは素人である陪審の事実審理においてはあてはまらず、むしろ事実の正確な探求に対する弊害となることが予想される。現在の裁判の弊害の多くは、供述調書、自白調書偏重を原因としており、この点からも、検察官面前調書(相反供述)及び被告人の不利益承認調書の証拠能力は認めるべきではない。
(説示前の弁論)
第62条 証拠調の終了した後、検察官、被告人及び弁護人は、犯罪の成立に関する事実上及び法律上の問題のみについて意見を陳述しなければならない。

2 被告人又は弁護人には、最終に陳述する機会を与えなければならない。

(説示)
第63条 前条の弁論終結後、裁判長は、陪審に対し、犯罪の成立に関して法律上の論点及び問題となるべき事実並びに証拠の要領を説示し、犯罪の成否の有無を問い、評議の結果を答申することを命じなければならない。ただし、証拠の信用性の有無及び罪責の有無に関し意見を表示してはならない。
(説示に対する異議)
第64条 検察官、被告人及び弁護人は、裁判長の説示に対して異義を串し立てることができる。

2 裁判所は、前項の申立について決定をしなければならない。

3 前項の決定に対しては、抗告をすることができない。

(問)
第65条 裁判長の問は、主問と補問とに区別し、陪審が単純な肯定否定の形式で答えることができる文言をもってこれを行わなければならない。

2 主問は、犯罪の成立の有無を評議させるためこれを行わなければならない。

3 犯罪の成立を阻却する事由となるべき事実の有無を評議させる必要があるときは、その問を他の問と区別してこれを行わなければならない。

(問の変更の申立)
第66条 陪審員、検察官、被告人及び弁護人は、問の変更を申し立てることができる。

2 裁判所は、前項の申立について決定をしなければならない。

3 前項の決定に対しては、抗告をすることができない。

(問書)
第67条 裁判長は、問書に署名押印してこれを陪審に交付する。

2 陪審員は、問書の謄本の交付を請求することができる。

(評議)
第68条 裁判長は、評議をさせるため、陪審員を評議室に退室させなければならない。

2 裁判長は、公判廷において取調をした証拠を陪審に交付することができる。

(評議室の交通遮断)
第69条 陪審員は、裁判長の許可を受けなければ、評議を終わる前、評議室を出たり、他人と交通してはならない。

2 陪審員でない者は、裁判長の許可を受けなければ評議室に入ることはできない。

(退出指示の遵守事項)
第70条 陪審の答申前に陪審員を裁判所から退出させるときは、裁判長は、陪審員に対し、滞留の場所及び他人との交通などに関し遵守すべき事項を指示しなければならない。
(違反者の職務執行禁止)
第71条 陪審員が第69条第1項の規定に違反したとき、又は前条の規定により指示された事項を遵守しないときは、裁判所は、その陪審員に対し、職務の執行を禁止することができる。
(陪審長)
第72条 陪審員は、陪審長を互選する。

2 陪審長は、議事を整理する。

(再説示の請求)
第73条 陪審員は、評議を終える前、さらに説示を請求できる。この場合には、公判廷においてその申立をしなければならない。
(答申)
第74条 答申は、問に対し肯定又は否定の形式をもって行う。ただし、問に掲げる事実の一部を肯定又は否定するときは、これについて肯定又は否定の形式で答申するものとする。
(評議の順序)
第75条 評議は、まず主問についてこれを行わなければならない。

2 主問を否定した場合に、補問があるときはこれについて評議をしなければならない。

(意見の表示)
第76条 陪審員は、問についてそれぞれその意見を述べなければならない。

2 陪審長は、最後にその意見を述べるものとする。

(制限多数決主義)
第77条 犯罪の成立を肯定するには、陪審員の10人以上の意見によらなければならない。

2 犯罪の成立を肯定する陪審員の意見が10人に達しないときは、これを否定したものとする。

<解説>
 陪審の評決にあたって、どの程度の意見の一教を要求するかは、陪審制度の運用に大きな影響を与えるものである。この点については、英米における伝続的な全員一教主義、あるいは旧法における過半数主義などが考えられる。
 しかし、「合理的な疑いを超える証明」があった場合のみ犯罪の成立を肯定すべきであるとする近代刑事司法の立場からは、過半数の賛成(すなわち、12人の陪審であれば、7人)をもって、このような証明があったとすることはできない。他方、英米における伝統的な全員一致主義は、要件としては最も厳格であり好ましいとはいいうるものの、実際の運用にあたっては種々の困難が予想される。すなわち、有罪・無罪いずれの認定にあたっても全員一致を要求することから、ただ一人の異見者の存在によって陪審の評決が不能となり、審理不能とされてしまうことになる。このようなことから、近年は英米においても全員一致主義が修正される傾向にあり、米国においては、州により10対2あるいは、9対3でも事実を認定しうるとされている。また、英国においては、1974隼の陪審法で、10対2による事実認定を認めている。このような動一きを取り入れて、この案では、10人以上の意見の一教で犯罪の成立を肯定しうると規定した。
(答申書、答申訂正命令)
第78条 答申は問書に記載し、陪審長が署名押印して、これを裁判長に提出しなければならない。

2 答申に不備又は齟齬があるときは、裁判長は問書を返付し、さらに評議を行い答申を訂正することを命じなければならない。

(答申の朗読)
第79条 裁判長は、公判廷において裁判所書記官に問及びこれに対する陪審の答申を朗読させなければならない。
(陪審員の退廷)
第80条 前条の手続が終了したときは、裁判長は、陪審の終了を宣言しなければならない。
<解説>
 陪審員の役割は、陪審の答申が朗読されたことで全て終了する。旧法の本条はそのことを明らかにした条文であり、陪審員を必ず物理的に退廷せることを命ずるものではない。この趣旨に従ってこの条文を変更した。
(有罪答申と量刑の手続)
第81条 陪審が犯罪の成立を肯定する答申をしたときは、量刑についての証拠調に移らなければならない。

2 前項の証拠調が終った後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。

3 被告人及び弁護人は意見を陳述することができる。

<解説>
 有罪答申がだされたときは、量刑に関して証拠調が可能であることは、旧法の解釈論として確立していたが、この点を条文上明らかにした。なお、誤って有罪答申がだされる事態を想定し、控訴以外で、救済する手段(例えば、裁判官全員一致の意見で無罪判決を直ちに云い渡せる)が必要か否かを、なお検討する余地がある。また、この新法では、陪審は事実認定をおこない、有罪の場合の量刑は裁判官が行うこととしているが、死刑事件の場合にも量刑が裁判官に任せられるべきであるかは問題となりうる(死刑の場合には、量刑についても陪審制を導入するという考えもあろう)。今後の検討課題である。
(無罪答申)
第82条 陪審が犯罪の成立を否定する答申をしたときは、裁判所は、無罪を言渡さなければならない。
<解説>
陪審の評決に拘束力を認め、裁判官もこれに従うという原則をとる以上は、裁判官によって、事件を新たな陪審に付することを認めることは背理である。これを容認するならば、裁判官は、自己の望む緒論を提出するまで陪審を更新することができることになってしまう。この点は、旧法における欠陥の一つであったとも指摘されている。
 陪審の更新の制度は、旧法においては憲法上の問題を避けるために必要であったと説明されているが、現行の憲法・裁判所の下においては、そのような問題はなんら存在しない。したがって、旧法のような陪審の更新制度は認めるべきではない。
(答申に基づく判決の言渡)
第83条 判決の言渡にあたっては、裁判所は、陪審の評議に付して事実の判断をしたことを示さなければならない。

2 有罪の言渡をなすには、罪となるべき事実及び法令の適用を示さなければならない。

3 前項の場合において、刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。

4 無罪の言渡をするには、犯罪の成立が認められないこと、又は被告事件が罪にならないことを示さなければならない。

(手続の更新)
第84条 引き続き7日以上開廷しないときは、公判手続を更新しなければならない。

2 陪審を構成すべき陪審員が、病気その他の事由によって職務を行うことができない場合で補充陪審員がいないときも前項と同様とする。

3 前2項の場合においては、新たに陪審構成の手続を行わなければならない。

(形式的裁判)
第85条 裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるときでも、公訴棄却、管轄違又は免訳の裁判をすべき事由があることを認めたときは、陪審の評議に付すことなくして裁判を行わなければならない。
(公判調書)
第86条 裁判所書記官は、陪審員の氏名、陪審の構成その他陪審に関する訴訟手続及び裁判長の説示を、公判調書に記載しなければならない。

第3節 上訴

(上訴の制限)
第87条 陪審の評議に付した事件についての無罪の判決に対して、上訴をすることはできない。

2 陪審の評議に付した事件についての有罪の判決に対しては、刑事訴訟法の規定に従って上訴することができる。

<解説>
陪審の事実認定を適用した判決に対して上訴を認めるべきか否かは、陪審制度の根幹に係る問題である。陪審の事実認定の当否を後から判断することは不可能であり、またこれをなすことは事実認定についての陪審の権能を奪うことになるという考えは十分に可能であり、そのような立場にたてば、上訴は法律問題についてのみなしうるということになろう。
 しかし、旧法においては事実認定を不服とする上訴が禁止されており、このことが被告人において陪審審理を敬遠する原因になっていたとも指摘されている。このような状況は、陪審審理の充実を図るうえで避けるべきであり、被告人に対しては、現行の刑事訴訟における上訴と同程度の救済措置が認められるべきである。したがって、この案においては、上訴については刑事訴訟法の規定を適用することとした。ただし、無罪判決に対する検察官の上訴については、これを無制限に許すならば国民の司法過程への参加を認めるという陪審制度を実質的に回避し、職業裁判官による司法への回帰を許す恐れがあるので、これを認めるべきではない。さらに、一般国民たる陪審12人のうち3人以上が有罪と認められないのであれば、その段階において「合理的な疑いを超える証明」はなしえないことが確定したとみるべきであり、この点は上訴によっても回復することはできないと考えられる。したがって、無罪判決に対する検察官の上訴については、これを認めないこととした。
(破棄自判・差戻し・移送)
第88条 控訴審又は上告審において破棄の事由となった事項が陪審の評議の結果に影響がないときは、陪審の答申はその効力を失わない。この場合においては、事件の差し戻し又は移送を受けた裁判所は、答申以後の手続のみを行うものとする。

第4章 陪審費用

(陪審費用)
第89条 次に掲げる費用は、被告人に負担させない。
<解説>
 旧法では、請求陪審事件において刑の言い渡しをするときは陪審費用を被告人に負担させていたが(107条)、この規定によって陪審審理が活発に利用されなかったとされている。したがって、新法では、陪審費用を被告人に負担させないこととした。

第5章 罰則

(過料)
第90条 陪審員は、次の各号に該当する場合においては、10万円以下の過料に処する。
(漏泄)
第91条 陪審員が、評議の顛末又は各陪審員の意見若しくはその多少の数を漏泄したときには、20万円以下の罰金に処する。
<解説>
 旧法では、陪審員の評議の顛末等を新聞等に掲載したときは、新聞の編集人等は、罰金に処せられることとされていた(第109条第2項)が、この規定は、報道の自由との関係で、問題があると考えられるので、新法では削除した。ただし、陪審審理の適正と報道の自由をいかに調和させるべきかは、今後も検討を要する。また、新法第一項は、旧法の規定をそのまま引き継いだが、これについても、右と同様の観点から検討の必要がある。
(交通禁止違反)
第92条 裁判長の許可を受けることなく陪審の評議室に入室した者又は陪審の評議が終わる前に裁判所内において陪審員と交通した者は、10万円以下の罰金に処する。
(請託・私談)
第93条 陪審の評議に付せられた事件について、陪審員に対し、請託をし、又は評議が終わる前に私に意見を述べた者は、1年以下の懲役又は4万円以下の罰金に処する。
(過料の手続)
第94条 過料の裁判は、陪審員を呼び出した裁判所が検察官の意見を聴いて、決定により、これを行なわなければならない。

2 地方裁判所の前項の決定に対しては、抗告をすることができる。この場合、抗告は執行を停止する効力を有する。

3 高等裁判所の第1項の決定に対しては、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。この場合、異議の申立は執行を停止する効力を有する。

4 過料の裁判の執行については、非訟事件手続法第208条の規定を準用する。

<解説>
刑事訴訟法第428条によれば、高等裁判所の決定に対しては、抗告をすることができず、一定の場合に異議の申立ができる。本条も、同様の考え方により規定した。

第六章 補則

(東京都特別区に関する規定)
第95条 東京都特別区においては、本法中市に関する規定は特別区にこれを準用する。
※注記 条名の表記は、わかりやすいように簡略化した。  条名の表記は、わかりやすいように簡略化した。