ドメスティック・バイオレンス禁止法案 コンメンタール(2000・8・2) 第1条 目的 司法統計によれば、例年、家庭裁判所における離婚調停の申立て理由として、妻の側の申立て理由は「性格の不一致」に次いで「(夫が)暴力を振るう」が第二位に挙げられている。 2000年2月に総理府が公表した家庭内暴力調査によれば、20人に1人の女性が命の危険を感じるほどの暴力を夫、パートナーから受けたことがあると回答している。 ここでは配偶者や恋人などパートナーからの暴力の主体を、厳密な意味で伝統的な家族構成員に限定しない意味で、家庭内暴力をドメスティック・バイオレンス(以下「DV」と略記する)と呼ぶ。 DVという呼称自体は、性中立的(gender neutral)であり、女性から男性への暴力も含み得るが、実態を見れば男性が加害者であるケースが圧倒的に多い。DVについての研究・対策が進んでいる先進諸国では、DVは「家族という関係における男と女の不均衡な力関係が生み出す、権力の濫用としての性暴力の一形態」である、と考えられている(戒能民江「イギリスにおける夫婦間暴力と法」現代法社会学の諸問題(上)1992年所収)。それは社会的・文化的に「男であるから」暴力は自然なことであり、また「女であるから」それを受容するのがあたりまえであると考えられてきた歴史の中で形成されてきたものである。 本法案も前記のような先進諸国法制の理念を踏襲し、DVとは経済的、社会的、精神的な男女間の不均衡な力関係(すなわち男性優越主義)がもたらす暴力である、という前提に立つ。このような考え方は、我が国も批准した女性差別撤廃条約及び国連総会全会一致で成立した「女性に対する暴力撤廃宣言」とも一致するものである。(注) DVは親密な関係の中で発生すること、家庭という密室で発生することが多いため目撃者がいない場合が多いこと、被害者女性が加害者男性の経済力に依存しているケースが多いこと、「トライアングル周期」と呼ばれる特殊な心理によって被害者が「いつか暴力は治るだろう」という期待を持たされ、結果として暴力被害の場から逃れられないなど、潜在化する様々な要因をはらんでいる。したがってDV被害者が被害を申告しやすい環境を整えると同時に、刑罰法規に触れるケースについては警察に積極的な介入を求める必要がある。 (注)国連の女性差別撤廃宣言(1993年)は、「女性に対する暴力」を「性別(ジェンダー)に基く暴力行為であって、女性に対して身体的・性的もしくは心理的な危害又は苦痛となる行為、あるいはそうなるおそれのある行為であり、さらにそのような行為の威嚇、強制もしくはいわれのない自由の剥奪をも含み、それらが公的生活で起こるか私的生活で起こるかを問わない」とする。 第2条 適用範囲 本法案はDVを男女間の不均衡な力関係の現われと捉える立場をとっており、したがって同じ家庭内暴力でも子ども・高齢者虐待や子どもの親への暴力はここには含まず、これらについては別な対処を必要とすると考える。 本法案は「DVを過去または現在において性的な関係を有する当事者間での暴力」(第1条)と捉えており、法律婚、事実婚を含む夫婦並びに同性愛のカップル、及び過去にこれらの関係にあった者を対象とする。 なお事実婚の要件、定義については民法の「内縁」の要件、定義と同様と解する。 第3条 定義 DVは肉体的・精神的・心理的・性的・社会的暴力等、さまざまな分類をされているが(これら全てを含む暴力を「広義の暴力」という)、本法案の主眼である裁判所の保護命令の申立・発布に関しては、もっぱら肉体的暴力を構成要件とする。これは、加害者にとっての手続保障が必要であることに加え、裁判所にとっても保護命令発布の要件を迅速・的確に見分ける必要があるからである。但し、本法案が企図することのうち、関係諸機関の者の啓蒙・啓発・研修等の適用に関しては、これを肉体的暴力に限定する必要はないので、広義での暴力を含むこととする。 第4条 国及び地方公共団体の義務 1. 本条1項は、DVが家庭内の私事にとどまらず、社会構造上の問題であることを確認し、国及び地方公共団体は、DVを防止し、被害者を保護する責務があることを明らかにした。2項以下で国及び地方公共団体がDV防止のために行うべき具体的義務を定めた。 2. 国及び地方公共団体は、DV防止と被害者保護のための中心的役割を果たす施設として防止センターを設置する義務がある。婦人相談所は売春防止法に基づく保護施設であるが、現実には多くの婦人相談所が本来の役割の外、本条の防止センターが実施すべき業務を行ってきたことから、婦人相談所の中に防止センターの機能を設けることにした。これにより婦人相談所が蓄積したノウハウを活用できるだけでなく、新たに防止センターを建設する時間的、経済的不経済を省ける。 3. DV被害者がDVから逃れて一時保護を求めた時は、いつでも即時に利用できる保護施設が必要であるが、防止センター内の保護施設だけでは対応できないこと、及び防止センターのような公立の知られた場所ではなく「隠れ家」に逃げこみたいと被害者が望むことが予想される。そこで、都道府県は、防止センターとは別に独自のDV被害者の保護施設を設置できるとした。 4. 国および都道府県は一定の基準を満たした民間シェルターに対し補助金を交付する義務があることを明記した。公的シェルターだけではDV被害者を保護するのに十分ではない。補助金交付により、民間シェルターが増加することが期待される。 5. DV被害は時間を問わない。そこで都道府県は24時間ホットラインを開設する義務があること、国は運営資金の2分の1を補助することを規定した。 6. DV被害者を保護し、再発を防止するには、DVの被害者加害者に関わる者にDVは人権侵害であり、犯罪であると理解させることが必要である。そこで、国及び地方公共団体は、DV被害の調査研究を推進し、DV被害者加害者に関わる司法、医療、警察関係者に対して研修を実施すべきことを定めた。 第5条 ドメスティック・バイオレンス発見者の通報義務等 1. DVは家庭という密室で行われることからなかなか他人に気づかれない。また、親密な関係の男女の間で起きることから被害者は被害を明らかにするのをためらいがちである。そこで、社会全体でDVを阻止、防止するとの観点から、広くDVを発見した者は誰でも捜査機関に申告する努力義務があるとした。 2. 2項に列記した者は通報義務がある。これらの者は、業務上、DVの被害者を発見する機会が多く、また、職務上、被害者を保護すべき責務があると考えられるから、一般人と異なる法的義務を課した。限定列挙である。これに伴い、刑法などで医師等に課せられる守秘義務は解除される(なお児童虐待防止法第六条が「児童虐待を受けた児童を発見した者は、速やかに、これを児童福祉法第二五条の規定により通告しなければならない」としているのを参照のこと。)但し通報義務違反に対して特に罰則は設けていない。 3. DVを発見した者が不利益を恐れて通報することを躊躇することがないように、通報によって不利益をうけるおそれがないことを明記した。したがって、故意に虚偽の通報をした者は除外される。 第6条 警察のとるべき措置 1. 個人の生命、身体の安全を保護することは警察の責務であるが、従来、警察は民事不介入を理由にDV被害者の生命、身体の安全を保護する措置をることに消極的であった。1999年12月に警察庁次長通達として「女性と子どもを守る施策」が出される等、警察官の姿勢に変化の兆しはみられるものの、本条はDV事件を担当する警察官が躊躇なくDV被害者保護とDV再発防止のために適切な措置をとりうる根拠規定である。 本条本項はDV被害者を保護し、DVの再発を防止するために警察がなすべき合理的措置を例示した。 (1) 暴力制止は現場に駆けつけた警察官の第一の任務である。また、DVは犯罪であるから、現場に駆けつけた警察官は犯罪捜査を行わなければならない。 (2) DV被害者の安全確保の為に、被害者を保護施設に送り届ける必要がある。しかし、直ちに家を出て保護施設に入居することは望まない被害者もいる。その場合には、防止センター等保護施設の連絡先を知らせることにした。 (3) DVの被害者は打撲、骨折など負傷していることが多い。そこで、緊急の治療が必要な被害者を医療機関に搬送することも警察官の職務と明記した。 (4) 被害者が保護命令や緊急保護命令を申し立てる際に、警察官がなすべき必要な援助とは、申立書を用意すること、記入方法を指導すること、家庭裁判所への申立てを代行すること、緊急保護命令が申立てられた際、管轄裁判所で必要な陳述をすること(11条1項)等がある。 (5) 被害者は、報復を恐れる等々の理由で、保護命令を申立てるのを躊躇することも多い。そこで、警察官は、保護命令の申立権者である検察官に対し保護命令の申し立てを請求できるとした。 (6) 警察官は、保護命令の円滑な執行のため、被害者から請求があった時は、第10条1項三号、五号、六号、十号及び第11条3項五号の執行に立ち会わなければならない。 (7) 本項は一定の要件の下で無令状逮捕を認めるものである。警察官が無令状逮捕できる者は、保護命令に違反した者と、違反したと信じる相当な理由のある者に限定される。違反したと信じる相当な理由があるかどうかは、具体的事案に現れたすべての事情を考慮して総合的に判断される。 2. 保護命令の申立権者である検察官は、警察官から保護命令、緊急保護命令の申立てを請求されたときは、原則として申立て義務があることを明記し、1項5号の警察官の行為を実効性あるものとした。 第7条 保護命令の申立権者 1. 保護命令の申立権者をDVの被害者及び検察官とした。ドメスティック・バイオレンスの被害者が、しばしば「学習性的無力感」という特殊な心理状態に置かれていることにかんがみると、被害者の生命身体及び性的自由を保護するためには、事案によっては被害者の意思に反しても保護命令の申立をすべき場合がある。ドメスティック・バイオレンスを発見した者の通報は、警察を通じてあるいは検察庁へ直接になされるため(第5条、第6条参照)、検察官を独立した申立権者としてこれに対処することとした。 2. 保護命令の管轄裁判所を家庭裁判所とした。家庭裁判所は、心理学、社会学等の専門知識を有した家庭裁判所調査官を有する。ドメスティック・バイオレンスの事案においても、被害者及び加害者の間の心理的・社会的な関係も含めて調査分析する必要があるため、地方裁判所よりも、むしろこのような調査機能を有する家庭裁判所を管轄裁判所とするのが適切である。 第8条 管轄 保護命令及び緊急保護命令は、家事審判法の定める相手方(加害者)の住所・居所のほか、申立人(被害者)の住所や居所、ドメスティック・バイオレンスの行われた場所を管轄する裁判所においても申し立てることができる。 ドメスティック・バイオレンスの被害者が、シェルター等の保護を受け、それまで加害者と同居していた住所地から離れた場合においても、保護命令の申立にあたり不利益が生じないように配慮した規定である。申立を受けた加害者の不利益については、職権移送及び申立による移送の運用によって対処できる。 第9条 準用 1. 保護命令及び緊急保護命令の管轄裁判所を家庭裁判所としたこと(第7条)に伴い、家事審判法において準用すべき規定を明らかにした。 2. 家事審判法においては、審判前の保全処分は家事審判の申立を前提にした規定である。しかし、ドメスティック・バイオレンスにおいては、現実に保護命令の申立の準備をしていたのでは間に合わないケースが想定されることから、緊急保護命令を、それ自体で被害者の早期救済が達成されるような制度として位置付けた。審判前の保全処分を準用したのは、その手続を流用するためであり、本法案における緊急保護命令は、審判の実効性を担保する制度である本来の審判前の保全処分とはその趣旨が異なる。したがって、保護命令の申立を前提とすべき理由はなく、この点を明らかにした。 第10条 保護命令 1. 保護命令とその内容 (1) ドメスティック・バイオレンスの存在が認められる場合、その再発防止のため、司法判断として執行力ある保護命令とその確実な執行は有効な手段であり、本法案はこの制度を創設するものである。従来の実務では人格権に基く妨害排除請求が認められているが、要件が必ずしも明確でないこと、申立に要する書面(申立書、疎明資料)が多く手続きが煩雑であること、迅速性に欠けること、保証金を要する場合があること等により十分機能してきたとはいえない。保護命令の申立があった場合、家庭裁判所は職権で調査を行い(家事審判法第7条・非訟事件手続法第12条)、審問手続きを経て、または家庭裁判所の裁量により審問手続を行わずに、必要な保護命令を内容とする審判を行うことができる。保護命令の内容は、加害者の不作為を要求するだけの場合もある。そこで、審問手続きを経なくとも加害者に格別の不利益はなく被害者保護のため早期審判の必要性が高いと判断される場合は、裁判所の裁量で審問なしの審判を行うことができるとした。なお、裁判所による保護命令の例としては証券取引法第192条がある。 (2) 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができ(家事審判規則7条の2第1項)、事実の調査は、必要に応じ、事件の関係人の性格、経歴、生活状況、財産状態及び家庭その他の環境等について、医学、心理学、社会学、経済学その他の専門知識を活用して行うように努めなければならない(同規則7条の3)。また、家庭裁判所は、事件の処理に関し、調査官に社会福祉機関との連絡その他の措置をとらせることができ(同規則7条の5)、更に、必要に応じて医師たる裁判所技官に事件の関係人の心身の状況について診断をさせることができる(同規則7条の6)。 (3) 保護命令の審判に対し異議のある場合は、告知から2週間以内に即時抗告を行うことができる(家事審判法第14条)。 金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力ある債務名義と同一の効力を有する(家事審判法15条)。また、保護命令違反のうち被害者の心身または生活に危険を及ぼすものは犯罪とされ(本法案第16条)、通常逮捕、現行犯逮捕、準現行犯逮捕の対象となる。 (4) 保護命令の内容のうち一・二・三・四・五号は、有形的暴力の防止及びその危険の除去のみならず精神的・心理的暴力、ストーカー行為等の防止を含む趣旨である。三号及び六号については、当該住居や動産類が加害者の所有に属する場合も対象となり得る。家庭内で暴力の危険にさらされずに平穏に暮らす権利は、個人の尊厳に基づく人格的権利であり、加害者の所有権に優先してまでも保護されるべきであるの価値判断による。七号は、ドメスティック・バイオレンスの環境下にある子どもを当該環境から解放するために暴力を振るう当事者の親権を制限するもので、八号は安全な環境下で面接交渉を行うため交渉の場所その他の条件を裁判所が制限するものである。九号の更正プログラム・カウンセリングに関しては、被害者・加害者が関係改善を希望している場合に、他の命令とあわせて出されることが想定される。これらの命令内容はあくまで例示列挙であり、家庭裁判所は、申立人等の生命身体の安全・生活維持に必要と認められるその他の命令を出すこともできる。 2. 保護命令の取下 通常の審判では、申立人が自由に申立を取下げることができるが、ドメスティック・バイオレンスのケースでは、被害者たる申立人が意思を抑圧されて取下ざるをえない状況も想定できる。そこで、取下を家庭裁判所の許可事項とし、裁判所の調査により、真実暴力の危険がなくなり意思が抑圧されているとは認められない等、取下に相当な理由があると認められる場合のみこれを認めることとした。 3. 保護命令の変更または解除等 保護命令の変更または解除、期間つき保護命令の延長、期間のない保護命令の解除についても、裁判所の調査を経て行われることとなる。特に変更または解除の際は、当事者の意思も尊重する趣旨で、被害者・加害者の審問を経て行われるべきとされている。 第11条 緊急保護命令 1. 緊急保護命令は、被害者の心身に重大な危険があると認められる場合に認められる。申立は書面または口頭により、相当な疎明がなされたと認められる場合は申立から24時間以内に発令されなければならない。ドメスティック・バイオレンスは、深夜に被害が発生し、また、被害者を早急に保護する必要が高いことが少なくないため、裁判所による24時間受付体制が要求され、裁判所規則での対応が必要となる。また、通常の保全処分と異なり、書面での疎明が困難な場合も少なくなく、被害現場に駆けつけた警察官の陳述をもって疎明ができるものとしている。 尚、わが国の裁判所、裁判官の数で、緊急性を要する保護命令を出せるかという疑問もあるが、裁判所では既に24時間対応可能な令状当番裁判官が常駐しているのであり、かかる裁判官に緊急保護命令の担当を委嘱することで、対応可能ではないかと思われる。更に、緊急保護命令は、暫定的被害者救済との位置付けから、原則として加害者の不作為のみを対象としているので、濫用の虞は少ない。 2. 緊急保護命令は、あくまで被害者保護のための緊急措置であるから、加害者の不作為を命じるものが原則とされる。緊急保護命令違反のうち一定の不作為命令違反は、犯罪とされる(本法案16条)ことにより、その実効性が確保される。手続的にも、命令決定書謄本は、司法警察官が相手方に交付することにより送達され、警察官の面前で命令違反があると現行犯逮捕がされるという抑止力がかかることにより、事実上強力な執行力を有することになる。 第12条 保護命令・緊急保護命令の通知 保護命令違反・緊急保護命令違反の中で被害者の心身及び生活に重大な危害をもたらすものは、犯罪を構成する(本法案16条)。保護命令・緊急保護命令の実効性を確保し被害者保護を徹底するため、所轄警察はこれらの命令の内容等及びその他被害防止に必要な事項を、十分に把握していなければならない。よって保護命令・緊急保護命令の内容は、裁判所から義務的に所轄警察への通知されなければならないとしたものである。 第13条 保護命令の送達、効力等 1. 保護命令、緊急保護命令ともに相手方に対する手続き保障のためには送達が必要であり、その旨を定めた。 2. 保護命令および緊急保護命令に対しては抗告ができるものとした。 3. 2項の抗告によっても執行停止の効力はないものとして迅速性を確保することとした。ただし抗告裁判所は決定をもって執行停止をすることができる。(なお少年法32条、34条を参照。少年法32条「保護処分の決定に対しては、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認または処分の著しい不当を理由とするときに限り、少年、その法定代理人又は付き添い人から、2週間以内に、抗告をすることができる(後略)。」少年法34条「抗告は、執行を停止する効力を有しない。但し、原裁判所又は抗告裁判所は、決定をもって、執行を停止することができる。」 第14条 調停手続の停止等 保護命令,緊急保護命令の申立ては,係争中の紛争において,一方当事者に関する重要な判断材料となるだけでなく,当事者間の接触や接近が当事者の片方に対する暴力,脅迫,悪質な嫌がらせとなるだけでなく,心理的な威圧となり結果として適切な調停や訴訟上の和解に対する不当な圧力となることが容易に想定される.よって、紛争の係属裁判所への適応並びに調停手続きの停止及び和解の禁止について定めた。 第15条 被害者の住所居所の秘密保護 公務員として当然職務上知りえた秘密に該当するというだけでなく,被害者の住所居所などの情報は,不必要に流布することで保護命令の申請などによって報復的な感情をかきたてられているかもしれない命令の名宛人,あるいはドメスティック・バイオレンスの加害者のために行動する第三者が是が非でも入手したいと考える情報であるので,極めて慎重に扱われるべきであり,裁判上のさまざまな連絡などにおいても,格段の注意が必要である. 第16条 罰則 本条は、裁判所命令の違反に対する罰則である。法定刑については米国マサチューセッツ州法(2年以下の懲役もしくは5000ドル以下の罰金)等、外国DV法の例を参考にした。本法第10条に定める保護命令ならびに第11条に定める緊急保護命令が、従来の民亊法上の仮処分命令(民亊保全法第23条2項)と異なるところは、本条において裁判所の命令に違反したときの刑事的制裁を規定することにより、命令に実効性を持たせたことである。裁判所の命令の違反自体が犯罪となり、違反者の逮捕が可能となる。違反者は刑事訴訟法201条の通常逮捕、212条1項ならびに2項の現行犯、準現行犯の場合に準じて逮捕される。 第17条 累犯加重 本条は、裁判所命令の違反の繰り返しに対する加重である。再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の二倍以下とする(刑法57条)。三犯以上の者でも、再犯の例と同じである(刑法59条)。加重された刑罰は違反の繰り返しに対する抑止効果を有する。 第18条 保釈等 保釈とは、勾留を観念的には維持しながら、保証金を納付させて、不出頭の場合は没収するという条件で威嚇し、被告人を暫定的に釈放する制度である。被疑者については、保釈は許されないが(刑事訴訟法207条1項但し書き)、裁判官の職権による勾留の執行停止はできる(刑事訴訟法95条)。被疑者/被告人の身柄処分に関する決定に先だって、裁判所は被疑者/被告人によって起こされうる危険性についての被害者の意見を聴かなければならない。特に、「ドメスティック・バイオレンスを行ったことが刑法上の罪に該当するとの容疑で勾留されている者」の身柄拘束の解除に関しては、被疑者/被告人が被害者との親しい関係から被害者の居所を知り得て、被害者に害を加え又は畏怖させる行為をする可能性があるので、被害者の意見を聴取する必要性は大きい。本条の合理性は刑事訴訟法89条5項(必要的保釈の除外事由)に根拠付けられる。 第19条 刑の執行猶予 1. 執行猶予の条件、及びその内容 (1) 刑の執行を猶予することができるのは、初犯であり、刑法25条の条件を満たす者でなければならない。 (2) 執行猶予を言い渡す際に付すことができるとして掲げた条件は、執行猶予中に加害者により再び被害者の心身及び生活に重大な危害を加えられること、さらに、被害者が加害者からの報復や再び危害を受けることへの恐怖等を取り除くことを目的としている。 (3) 条件のうち一・二・三・四号に関しては、第10条一・二・四・五号と同様に有形的暴力の防止及びその危険の除去のみならず精神的・心理的暴力、ストーカー行為等の防止を含む。五号のアルコール・薬物の所持禁止は、アルコール飲用時や薬物使用時にドメスティック・バイオレンスが行われやすいことに鑑み、その再発防止のためにこのような規定を設けた。六号で加害者のための更正プログラム・カウンセリングへの参加を命ずるにあたって裁判所は、加害者の参加意思、ドメスティック・バイオレンスを再び振るわないこと、カウンセリング・プログラムの課題の確実な遂行とその費用を支払う意思を確認した上で行わなければならない。いかなるプログラムを選ぶかは、保護観察または精神科医等のアドヴァイスを受ける。七号で裁判所は被害者への損害を賠償を命じることができる。これらの内容は、あくまで例示列挙であり、裁判所は八号により、被害者及び同居人の生命身体の安全・保護のために必要と認められるその他の条件を付すこともできる。 (4) 保護観察に関しては、執行猶予者保護観察法を準用する。なお、保護観察にあたって加害者を直接に指導監督する保護観察官、保護司等は、第4条6項に定める「被害者・加害者に関わる者」に含まれる。 2. 被害者への通知 裁判所は、被害者に対し加害者が執行猶予を受けたこと及び刑の執行猶予の条件を通知することを義務付けた。それは、執行猶予によってもたらされる被害者への精神的負担を軽減し、被害者の安全を配慮し事前の対処等を可能にするためである。 3. 執行猶予の取り消し 保護観察に付された者が第一項の条件に違反したときは、執行猶予を取消すものとする。 第20条 仮出獄の条件 刑法28条の規定により仮出獄を認められた者が、保護観察に付される場合は上記規定を準用することとする。 第21条 受刑者の処遇計画 刑事施設の長は、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門知識及び技術を活用して、受刑者の資質及び環境の調査を行い、ドメスティック・バイオレンスについて十分な研修・教育を受けた関係政府諸機関によって受刑者ごとに処遇計画を定める。この処遇計画は、必要に応じ変更することができる。 (社)自由人権協会 ドメスティック・バイオレンス禁止法案提言プロジェクト 市毛 由美子 紙谷 雅子 齊藤 誠 斉藤 文栄 富岡 恵美子 林 陽子 樋口 由美子 福島 瑞穂 古島 ひろみ 宮園 久栄 吉川 真美子 9