ドメスティック・バイオレンス禁止法案(2000・8・2) (目的) 第1条 この法律は、性的に親密な関係のある当事者間での暴力(以下「ドメスティック・バイオレンス」という)に関して、被害者の迅速な保護および権利の回復がこれまで十全でなかったことに鑑み、これらの措置を充実させることによってドメスティック・バイオレンスの防止をはかり、もって憲法の定める両性の本質的平等を実現することを目的とする。 (適用範囲) 第2条 本法は次の当事者間における暴力について適用される。 一 夫婦(事実婚を含む) 二 過去において一の関係にあった者 三 過去または現在において同性愛者間で生活共同体を築いた者 (定義) 第3条 本法において暴力とは、有形力の行使をいい、その解釈は刑法208条に準じる。ただし、本法の適用のうち、第4条の適用に関しては、暴力に精神的・心理的・性的・社会的暴力も含むものとする。 2 内閣府男女共同参画局長は、前項の暴力の定義に関して指針を策定する。この指針はわが国が批准した国際人権文書及びそれに付随する勧告、条約によって定立された委員会からのコメント等の内容を反映するものでなければならない。 (国および地方公共団体の義務) 第4条 国および地方公共団体は、ドメスティック・バイオレンスを防止し、その被害者を保護する義務を負う。 2 都道府県は売春防止法によって設置された婦人相談所の中にドメスティック・バイオレンス防止センター(以下「防止センター」)の機能を設ける。防止センターは、被害者および同伴家族の一時保護ならびに生活支援、被害者・加害者双方に対するカウンセリング、医療機関・福祉事務所・警察・弁護士等被害者の援助に必要な諸機関との連絡を行う。その他防止センターの設置・運営に関する事項は政令で定める。 3 前項の規定は都道府県が婦人相談所とは別に独自のドメスティック・バイオレンス被害者のための保護施設を設置することを妨げない。 4 国および都道府県は、ドメスティック・バイオレンス被害者の一時保護を行っている民間施設であって政令で定める一定の基準を満たしたものに対して、補助金を交付しなければならない。 5 都道府県は、24時間通話料無料で利用可能なドメスティック・バイオレンス緊急電話(ホットライン)を開設しなければならない。国はホットライン運営費用の2分の1を都道府県に対して補助する。 6 国および地方公共団体は、ドメスティック・バイオレンス被害者に対して適切な保護を行い、加害の再発防止に寄するよう、ドメスティック・バイオレンス被害に関する調査研究を推進し、被害者・加害者に関わる者(司法・医療・福祉・警察を含む)の資質の向上のために研修を実施する。これらの研修実施にあたって、国及び地方公共団体は、ドメスティック・バイオレンスの被害者保護を行う民間団体との連携に努める。 (ドメスティックバイオレンス発見者の通報義務等) 第5条 ドメスティック・バイオレンスの被害をうけている者を発見した者は、これを捜査機関、DV防止センター又は福祉事務所に通報するよう務めなければならない。 2 次の各号のいずれかに該当する者が、その職務遂行中にドメスティック・バイオレンスの被害をうけている者を発見したときは、直ちに捜査機関、DV防止センター又は福祉事務所に通報しなければならない。これらの者の法律上の守秘義務は本法適用との関係においては解除される。 一 医師、歯科医師、看護婦 二 柔道整復師、あんまマッサージ指圧師、針灸師 3 何人も、第1、第2項の規定によりドメスティック・バイオレンスの通報をした者に対し、通報行為を理由として、いかなる不利益な取扱いもしてはならない。ただし、故意に虚偽の通報をした者については、この限りでない。 (警察のとるべき措置) 第6条 ドメスティック・バイオレンスの通報をうけた司法警察職員は、直ちに現場に臨場し、次の各号の措置その他ドメスティック・バイオレンスの再発を防止するための合理的措置を採らなくてはならない。 一 暴力の制止および犯罪の捜査 二 被害者を防止センター、民間保護施設等安全な場所に送り届けること。ただし、被害者が防止センター等保護施設への入居を望まないときは、右施設の連絡先等の情報を提供すること 三 緊急の治療が必要な被害者を医療機関へ搬送すること 四 被害者が保護命令を申立てるにつき、必要な援助を行うこと 五 暴力が再発するおそれがあると認めるとき、検察官に対し本法第10条に定める保護命令の申立てを請求すること 六 保護命令の執行に立ち会うこと 七 保護命令に違反した者、又は違反したと信じる相当な理由がある者を逮捕すること。 2 検察官は、前項五号の請求をうけたときは、申立てに理由がないことが明らかでない限り、保護命令の申立てをしなければならない。 (保護命令の申立権者) 第7条 ドメスティック・バイオレンスの被害者及び検察官は、家庭裁判所に対して、加害者に対する保護命令の申立を行うことができる。 (管轄) 第8条 本法に定める保護命令及び緊急保護命令の申立は、家事審判法の定める管轄の他、申立人の住所もしくは居所またはドメスティック・バイオレンスの行われた場所を管轄する家庭裁判所の管轄にも属する。 (準用) 第9条 本法に特別の定めがある場合を除き、保護命令及び緊急保護命令の申立及び裁判については、家事審判法第1章及び第2章並びに家事審判規則の規定を準用する。この場合、保護命令の審判は、同法第9条の甲類審判とみなす。また、緊急保護命令については同法第15条の3(審判前の保全処分)の規定を準用する。 但し、緊急保護命令は、保護命令の申立がなくともこれを単独で申立てることができる。 (保護命令) 第10条 保護命令の申立があった場合、家事審判官は必要により審問を行いまたは行うことなく、ドメスティック・バイオレンスの加害者に対して、次の命令を内容とする審判を行うことができる。 一 申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、ドメスティック・バイオレンスを行うこと及びドメスティック・バイオレンスを行うことを告げて威迫する行為の禁止 二 直接間接を問わず、申立人に対して、面会・電話その他の方法で接触しまたは連絡をとる行為の禁止 三 住居からの退去 四 申立人並びにその指定する親族及び同居人の住居、就業場所、就学場所、その他申立人の指定する場所への立入り及びかかる場所から一定距離への接近禁止 五 裁判所の指定する銃器その他の危険物の所持の禁止・引渡 六 特定の生活必需品その他申立人の生活維持のため必要な動産類の占有を申立人に引渡し、これを申立人の使用・収益に供すること。 七 親権の暫定的停止 八 子に対する面接交渉の制限又は禁止 九 裁判所の指定する加害者のための更正プログラムまたはカウンセリングへの参加 十 その他申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、その生命身体の安全または生活維持のために必要と認められる措置 2 保護命令申立の取下は、裁判所の許可なくして行うことはできない。裁判所は、取下の理由について職権で調査を行い、相当な理由が認められる場合でなければ、取下の許可を行ってはならない。 3 保護命令の変更または解除は、申立または職権により、当事者双方の審問を経て行われなければならない。 4 裁判所は、保護命令に相当な期間を付することができる。裁判所が、保護命令に期間を定めなかった場合は、保護命令は裁判所の解除決定あるまで効力を有するものとする。 5 保護命令に有効期間が付された場合、裁判所は申立または職権により、保護命令の有効期間を延長することができる。 6 保護命令に有効期間が付されていない場合、裁判所は申立または職権により、相当の理由があると認める場合には、保護命令を解除することができる。 (緊急保護命令) 第11条 ドメスティック・バイオレンスの被害者及び検察官は、被害者の心身に重大な危険があるときには、書面または口頭で、緊急保護命令の申立を行うことができる。この場合、申立人は、司法警察職員の陳述により疎明を行うことができる。 (規則で24時間受付体制を規定) 2 前項の申立に対し、裁判所が相当な疎明がなされたと認める時は、申立時から24時間以内に、緊急保護命令を発令しなければならない。 3 緊急保護命令は、次の命令を内容とすることができる。 一 申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、ドメスティック・バイオレンスを行うこと及びドメスティック・バイオレンスを行うことを告げて威迫する行為の禁止 二 直接間接を問わず、申立人に対して、面会・電話その他の方法で接触しまたは連絡をとる行為の禁止 三 申立人並びにその指定する親族及び同居人の住居、就業場所、就学場所、その他申立人の指定する場所への立入り及び接近禁止 四 親権の暫定的停止 五 その他申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、その生命身体の安全または生活維持のために必要と認められる措置 4 裁判所は、司法警察職員に緊急保護命令決定書謄本を被申立人に交付させることにより、その送達を行うことができる。 5 緊急保護命令の申立の取下、緊急保護命令の変更または解除については、前条(保護命令)の規定を準用する。 (保護命令・緊急保護命令の通知) 第12条 裁判所は、保護命令又は緊急保護命令を発令した場合は、所轄の警察署に対し、申立人及び被申立人の住所、氏名、命令内容、命令の有効期間その他ドメスティック・バイオレンスの防止の為に必要と認める事項を通知しなければならない。 (保護命令の送達、効力等) 第13条 保護命令及び緊急保護命令は相手方に送達されることにより効力を生じる。 2 保護命令及び緊急保護命令に対して不服がある者は、2週間以内に抗告することが出来る。 3 抗告は執行を停止する効力を有しない。但し抗告裁判所は決定をもって執行を停止することができる。 (調停手続の停止等) 第14条 裁判所は、保護命令または緊急保護命令の申立てがあった場合には,速やかに当事者間に家事調停事件、家事裁判事件その他の訴訟事件が係属しているか否かを調査し、家事調停事件、家事裁判事件その他の訴訟事件の係属裁判所に保護命令の申立てがあった旨を通知しなければならない。 2 前項の通知があった場合,調停事件の係属裁判所は,保護命令または緊急保護命令の取下許可,解除,取消または期間終了までの間,調停事件を停止しなければならない. 3 第1項の通知があった場合,訴訟事件の係属裁判所は,保護命令または緊急保護命令の取下許可,解除,取消または期間終了までの間,訴訟上の和解を行ってはならない. (被害者の住所居所の秘密保護) 第15条 裁判所,裁判所職員および司法警察職員は,職務上知りえたドメスティック・バイオレンスの被害者の住所,居所その他の情報を、被害者の許可なく加害者その他の第三者に開示してはならない. (罰則) 第16条 本法に定める第10条(保護命令)第1項一号ないし六号又は第11条(緊急保護命令)第3項一号ないし三号に違反した者は、2年以下の有期懲役又は勾留もしくは50万円以下の罰金に処し、またはこれらを併科する。 (累犯加重) 第17条 保護命令違反または緊急保護命令違反で有罪判決を受けた者が、その確定判決の言渡を受けた日から、5年以内に保護命令違反または緊急保護命令違反を行った場合は、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処し、またはこれらを併科する。   (保釈等) 第18条 裁判所は、保護命令違反又は緊急保護命令違反の容疑で勾留されている者、またはドメスティック・バイオレンスを行ったことが刑法上の罪に該当するとの容疑で勾留されている者の勾留取消、保釈又は勾留執行停止の決定を行なうにあたり、事前に被害者の意見を徴することを要す。 2 前項の場合、裁判所は勾留取消、保釈又は勾留執行停止の決定と同時に、決定の内容及びその条件を被害者に通知しなければならない。 (刑の執行猶予) 第19条 保護命令違反又は緊急保護命令違反の罪で刑の言渡しを受けた者、またはドメスティック・バイオレンスを行ったことが刑法上の罪に該当するとして刑の言渡しを受けた者が、その刑の執行を猶予される場合には、執行猶予中次の条件を付して保護観察に付することができる。 一 被害者並びにその指定する親族及び同居人に対して、ドメスティック・バイオレンスを行うこと及びドメスティック・バイオレンスを行うことを告げて威迫する行為の禁止 二 直接間接を問わず、被害者に対して、面会・電話その他の方法で接触しまたは連絡をとる行為の禁止 三 被害者並びにその指定する親族及び同居人の住居、就業場所、就学場所、その他被害者の指定する場所への立入り及びかかる場所から一定距離への接近禁止 四 裁判所の定する銃器その他の危険物の所持の禁止・引渡 五 アルコール又は薬物の所持禁止 六 裁判所の指定する加害者のための更正プログラムまたはカウンセリングへの参加。但しこれらの費用は加害者が負担する。 七 被害者への損害賠償 八 その他、被害者及びその親族及び同居人の保護のために必要な措置 2 前項の場合、裁判所は加害者が刑の執行猶予を受けたこと及び刑の執行猶予の条件について、判決言い渡しと同時に被害者に通知しなければならない。 3 保護観察に付された者が、第1項の条件に違反した場合には、執行猶予の言渡しを取消すものとする。 (仮出獄の条件) 第20条 第18条(保釈等)及び前条(刑の執行猶予)の規定は、保護命令違反又は緊急保護命令違反の罪で刑の言渡しを受けた者、またはドメスティック・バイオレンスを行ったことが刑法上の罪に該当するとして懲役刑の言渡しを受けた者が、仮出獄によって保護観察に付される場合に、これを準用する。 (受刑者の処遇計画) 第21条 関係政府諸機関は、保護命令若しくは緊急保護命令に違反し、又はドメスティック・バイオレンスを行ったことにより刑法上の罪を犯した受刑者の処遇計画を定めなければならない。 3