(保護命令)
第10条 保護命令の申立があった場合、家事審判官は必要により審問を行いまたは行うことなく、ドメスティック・バイオレンスの加害者に対して、次の命令を内容とする審判を行うことができる。
一 申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、ドメスティック・バイオレンスを行うこと及びドメスティック・バイオレンスを行うことを告げて威迫する行為の禁止
二 直接間接を問わず、申立人に対して、面会・電話その他の方法で接触しまたは連絡をとる行為の禁止
三 住居からの退去
四 申立人並びにその指定する親族及び同居人の住居、就業場所、就学場所、その他申立人の指定する場所への立入り及びかかる場所から一定距離への接近禁止
五 裁判所の指定する銃器その他の危険物の所持の禁止・引渡
六 特定の生活必需品その他申立人の生活維持のため必要な動産類の占有を申立人に引渡し、これを申立人の使用・収益に供すること。
七 親権の暫定的停止
八 子に対する面接交渉の制限又は禁止
九 裁判所の指定する加害者のための更正プログラムまたはカウンセリングへの参加
十 その他申立人並びにその指定する親族及び同居人に対して、その生命身体の安全または生活維持のために必要と認められる措置
2 保護命令申立の取下は、裁判所の許可なくして行うことはできない。裁判所は、取下の理由について職権で調査を行い、相当な理由が認められる場合でなければ、取下の許可を行ってはならない。
3 保護命令の変更または解除は、申立または職権により、当事者双方の審問を経て行われなければならない。
4 裁判所は、保護命令に相当な期間を付することができる。裁判所が、保護命令に期間を定めなかった場合は、保護命令は裁判所の解除決定あるまで効力を有するものとする。
5 保護命令に有効期間が付された場合、裁判所は申立または職権により、保護命令の有効期間を延長することができる。
6 保護命令に有効期間が付されていない場合、裁判所は申立または職権により、相当の理由があると認める場合には、保護命令を解除することができる。
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1. 保護命令とその内容
(1) ドメスティック・バイオレンスの存在が認められる場合、その再発防止のため、司法判断として執行力ある保護命令とその確実な執行は有効な手段であり、本法案はこの制度を創設するものである。従来の実務では人格権に基く妨害排除請求が認められているが、要件が必ずしも明確でないこと、申立に要する書面(申立書、疎明資料)が多く手続きが煩雑であること、迅速性に欠けること、保証金を要する場合があること等により十分機能してきたとはいえない。保護命令の申立があった場合、家庭裁判所は職権で調査を行い(家事審判法第7条・非訟事件手続法第12条)、審問手続きを経て、または家庭裁判所の裁量により審問手続を行わずに、必要な保護命令を内容とする審判を行うことができる。保護命令の内容は、加害者の不作為を要求するだけの場合もある。そこで、審問手続きを経なくとも加害者に格別の不利益はなく被害者保護のため早期審判の必要性が高いと判断される場合は、裁判所の裁量で審問なしの審判を行うことができるとした。なお、裁判所による保護命令の例としては証券取引法第192条がある。
(2) 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができ(家事審判規則7条の2第1項)、事実の調査は、必要に応じ、事件の関係人の性格、経歴、生活状況、財産状態及び家庭その他の環境等について、医学、心理学、社会学、経済学その他の専門知識を活用して行うように努めなければならない(同規則7条の3)。また、家庭裁判所は、事件の処理に関し、調査官に社会福祉機関との連絡その他の措置をとらせることができ(同規則7条の5)、更に、必要に応じて医師たる裁判所技官に事件の関係人の心身の状況について診断をさせることができる(同規則7条の6)。
(3) 保護命令の審判に対し異議のある場合は、告知から2週間以内に即時抗告を行うことができる(家事審判法第14条)。
金銭の支払い、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力ある債務名義と同一の効力を有する(家事審判法15条)。また、保護命令違反のうち被害者の心身または生活に危険を及ぼすものは犯罪とされ(本法案第16条)、通常逮捕、現行犯逮捕、準現行犯逮捕の対象となる。
(4) 保護命令の内容のうち一・二・三・四・五号は、有形的暴力の防止及びその危険の除去のみならず精神的・心理的暴力、ストーカー行為等の防止を含む趣旨である。三号及び六号については、当該住居や動産類が加害者の所有に属する場合も対象となり得る。家庭内で暴力の危険にさらされずに平穏に暮らす権利は、個人の尊厳に基づく人格的権利であり、加害者の所有権に優先してまでも保護されるべきであるの価値判断による。七号は、ドメスティック・バイオレンスの環境下にある子どもを当該環境から解放するために暴力を振るう当事者の親権を制限するもので、八号は安全な環境下で面接交渉を行うため交渉の場所その他の条件を裁判所が制限するものである。九号の更正プログラム・カウンセリングに関しては、被害者・加害者が関係改善を希望している場合に、他の命令とあわせて出されることが想定される。これらの命令内容はあくまで例示列挙であり、家庭裁判所は、申立人等の生命身体の安全・生活維持に必要と認められるその他の命令を出すこともできる。
2. 保護命令の取下
通常の審判では、申立人が自由に申立を取下げることができるが、ドメスティック・バイオレンスのケースでは、被害者たる申立人が意思を抑圧されて取下ざるをえない状況も想定できる。そこで、取下を家庭裁判所の許可事項とし、裁判所の調査により、真実暴力の危険がなくなり意思が抑圧されているとは認められない等、取下に相当な理由があると認められる場合のみこれを認めることとした。
3. 保護命令の変更または解除等
保護命令の変更または解除、期間つき保護命令の延長、期間のない保護命令の解除についても、裁判所の調査を経て行われることとなる。特に変更または解除の際は、当事者の意思も尊重する趣旨で、被害者・加害者の審問を経て行われるべきとされている。
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